「切通坂」ビブリア古書堂の事件手帖 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
切通坂
三上延原作の大ヒットミステリー小説を映画化した、5年前の作品。Huiuで鑑賞。ミステリーとしては、派手な犯罪が起こるわけでもなく、どんでん返しも無く、古都鎌倉を舞台とした、古書に纏わる郷愁を誘うこじんまりとした内容。テレビでも、剛力彩芽が主演でドラマがされたが、むしろ、こちらの方が、原作の栞子のイメージに合っているように感じた。
内容的には、太宰治の希少本『晩年』を巡って、大場葉蔵と名乗る人物から脅迫を受ける栞子の危機を描いた現代と、大輔の祖母が、夏目漱石の『それから』に託した、許されなかった恋愛模様を描いた戦後昭和の2つのシーンが交錯して描かれていく。ミステリーではあるが、その根本には、三世代に渡っての、隠されたラブ・ストーリーが流れている。
五浦大輔は、亡き祖母の遺品でもある、夏目漱石全集の中に、漱石の署名が入った『それから』の古書を鑑定してもらいに、ビブリア古書堂に出向く。そこで店主・篠川栞子が、本を鑑定しただけで祖母の過去を見抜いたことから、大輔は栞子に心惹かれ、古書堂で働くことになる。そして、太宰治の希少本の『晩年』と夏目漱石の『それから』の作品が、深く絡み合うミステリーのストーリーのアイテムとなって、戦後昭和と現代とを結びつけていく。
栞子役を演じた黒木華は、その風貌からも物静かで本のことしか頭にない、地味なメガネっ子にはピッタシの役所。栞子を慕い、幼少期のトラウマで活字が読めない青年大輔を演じた野村周平も、草食的な役柄としては、良かったように思う。
また、東出昌大と夏帆が、戦後昭和の中での不倫関係を演じているが、昭和らしいセピア色に包まれたノスタルジックな雰囲気の中で、切なく許されない恋の行く末を演じている。しかし、東出君に野村君というと、この時は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、その後の状況を予測できなかったであろう。