「また一つ、ビミョーな“栞子さん”が…」ビブリア古書堂の事件手帖 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
また一つ、ビミョーな“栞子さん”が…
本について人並み外れた知識を持つ古書堂の美人店主が、本と客にまつわる秘密を紐解いていく、ベストセラー・シリーズ小説を初映画化。
いつぞやのTVドラマ版で、原作のヒロインのイメージと全く似てない“ZOZO女優”が演じ、賛否両論に。
かと言って、本作の黒木華も決してイメージに合うとは思えないが…。
原作のカバー・イラストの栞子さんはもっと美人。
あ、原作は未読。
話の方は…
無職の青年・大輔は、亡き祖母の愛蔵書の中から、夏目漱石と思われる実筆サインを発見。その本、幼い頃に持ち出した時、祖母にメッチャ怒られた記憶あり。
ビブリア古書堂の栞子さんに調べて貰うが、サインは偽物。が、もう一人、見知らぬ人物のサインがあり、ひょんな事からバイトする事になった傍ら、祖母の思わぬ秘密を知る。それは…
祖母の若かりし頃の不倫の恋!
ひょっとして自分は不倫相手の孫…?
知るべき秘密だったのか、知って良かった秘密だったのか…。
これだけだったら何とつまらない話。
もう一つ、“事件”が。
ビブリア古書堂で最も高価な本が何者かに狙われている。石段で突き飛ばされ、栞子さんは足を骨折。
そこまでして狙う何者かの目的は…?
何者かの正体は…?
漱石の『それから』や太宰の『晩年』など、本や作者は実名で登場。
『それから』と祖母の秘密の恋がリンク。
そこにもう一つの事件が巧みに…絡み合っているとは思えない。
“文芸ミステリー”とは銘打ってはいるものの、ミステリーの醍醐味にはいまいち乏しい。
何と言うか、全体的に淡々としていると言うか、フワッとした感じ。
本を狙う何者かの正体もすぐ分かる。
2つのエピソードも最後の最後にこじつけ程度に繋げたような感じ。
調べてみたが、一応原作に沿ってはいるが、原作では第1巻の第1話と第4話らしい。
舞台の鎌倉の雰囲気やアンティークな感じの古書堂の美術は悪くないが…
黒木華、野村周平、成田凌らメインキャストは好演しているものの、あまり魅力を感じない。
キャストで良かったのは栞子さんの快活な妹役の女の子と、“秘密の恋人関係”の夏帆と東出昌大くらいか。
原作自体は前々から気になり、ちょっと見てみたかった映画版だったが、期待外れ。これも作り手の問題か。
監督の三島有紀子は『幼な子われらに生まれ』で卓越した演出を見せていたのに…。
ちと残念な出来映えは、ある意味“事件”であった。