「優しく、力強いメッセージ」火花 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
優しく、力強いメッセージ
原作未読で鑑賞。ピース又吉原作なので、太宰っぽい救いのない話かと想像してましたが全然違いました。
夢破れた者たちを全肯定し高らかに謳いあげる、とても力強く優しいテーマを持った映画でした。
ラストの神谷の語りは本当に胸に迫りました。まるでゴスペル。弱っているときに観たら涙腺決壊していたと思います。
しかし、もうひとつのクライマックスとも言えるスパークスのラスト漫才はエモかったけれど胸には迫らなかったです。
その理由は、徳永がどんな漫才をやりたかったのかが作品内で描かれてなかったからだと思います。
神谷のやりたいことは理解できます。漫才の枠を超えるような笑いをしたかったのでしょう。音と動きのズレのネタとかにその思いは描写されてます。
しかし、自分の方向性では売れず、葛藤がある。そのため身持ちをさらに崩したり、迷走して徳永のマネしたりと、神谷の10年の苦闘は伝わります。だから彼には悲しみを感じたし、後半のデブ女の家で神谷に向けて語る徳永の言葉には胸が震えました。
一方、徳永は漫才を愛している、やりたいという情熱は伝わるが、表現者としての哲学が見えづらい。売れたい、相方とうまく行かない以外の葛藤が伝わらなかった。だからこそ、ライブという表現の場で思いを語られても、もともと彼が何をしたいのかわからないため、いまひとつ心が動かなかったのです。
また、もしかすると徳永は自分の可能性に見切りをつけていたのかも、とか想像しました。少し売れた後も、それを手掛かりに次の一手を考える様子はなく、どうせこれは一過性のものだ、と醒めていました。この淡白さは観ていたときはまったく解せなかった。そのため、徳永の心の奥底では、自分たちは成功できない、なぜならば才能がないから、と決めつけて諦めていたのかも、という仮説を立てたのです。
なので、ラストライブの感想は、やっと夢の呪いから解放されて良かったね、というものでした。
しかし、そんなのは関係なく、10年挑戦し続けたことが尊いのだ、敗れ去った者にも意味があるのだ、とラストの高らかな宣言に、めちゃめちゃ感動。まさにその通り!と完全同意し、良い映画を観たなぁ〜としみじみしている次第です。
エンディングの浅草キッドもさすがの名曲で、桐谷健太の歌も最高で持っていかれました。
終わり良ければ全て良しとはよく言ったものです。