「板尾監督のキャスティングの勝利。吉本映画の逆襲。」火花 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
板尾監督のキャスティングの勝利。吉本映画の逆襲。
これは、"吉本興業映画の逆襲"だ。驚くべきことに、そこそこイイ(笑)。
吉本協賛で毎年開応催される、"島ぜんぶでおーきな祭 沖縄国際映画祭"をはじめ、吉本映画を"映画"として認めるならば、映画ファンを小バカにしている作品が多い。ダウンタウンの松本人志監督の映画にいたっては、100年先を行っている感性に、観客が置いてきぼりにされる始末。
マジメな"映画愛"を感じることができるのは、品川庄司の品川ヒロシ監督くらいかもしれない。
原作は300万部を超える社会現象と呼べるほどの小説。その監督を託されたのは板尾創路。俳優・歌手・作家として、そのシュールな笑いに隠れファンはいると思うが、監督としては、「板尾創路の脱獄王」(2010)、「月光ノ仮面」(2012)に続く3作目で、前2作は興行的に成功しているとは言い難い。
吉本としては、原作印税やNetflixドラマ化で十分儲けたから良しなのか、よくわからない。しかし結果オーライ。吉本興業のほうに"見る目"があったと認めざるを得ない。
全体的にオーソドックスな映画手法で、板尾監督らしからぬ、まっとうな作品である。かといって原作そのままではなく、原作に忠実なNetflixドラマ版とは異なり、2時間で見やすいようにニュアンスやタイムラインが最適化されている。板尾監督によって消化され、映画として整えられている。シンプルで無難な仕上げである。
むしろ板尾監督の巧さは、キャスティングに尽きるのかもしれない。
主演の桐谷健太と菅田将暉に関しては、他の監督でも似たり寄ったりかもしれないが、2人とも大阪府出身であるというルーツの部分は非常に重要である。菅田将暉に関しては、シリアスなドラマ以上に、そのコメディセンスの高さは、「セトウツミ」(2016)や「帝一の國」(2017)で、誰もが認めるところ。
そしてその主演よりも、桐谷演じる"神谷"がコンビを組む、"あほんだら"の相方・"大林"役の三浦誠己の起用。さらに"スパークス"で菅田将暉の"徳永"の相方である、"山下"役に2丁拳銃の川谷修士を当てたことが見事というほかない。これがお笑いの世界で生きる、板尾監督のセンスなのだろう。
板尾監督のシュールで実験じみたところは、原作小説が芥川賞を獲った"オチ"ともいえる、"おっぱい"の部分だけである。といっても、"おっぱい"は本作では終盤でVFX映像がインサートされる小ボケにすぎない。映画のクライマックスは、スパークスの解散ライブのシーンであり、ここで感動を最高潮に持ってくる。
本音と反対の言葉を叫んで感動に持ち込むという、このシーンは原作からして、"帰ってきたドラえもん(さようならドラえもん)"のアレンジであり、やはり"おっぱい"のオチがなければ、作品としてのオリジナリティはない。あくまでもこの2つはセットなのである。
そして、神谷と同棲する彼女・"真樹"役の木村文乃がめちゃ可愛い。
ブレイク直前の"石原さとみ"に早くから目をつけていた板尾監督(監督2作目に出演)のセンスは女優起用でもいかんなく発揮されている。木村文乃ファンにとっても、最高の映画である。
(2017/11/23 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)