「演技には見ごたえがあるが、内容はやや消化不良」否定と肯定 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
演技には見ごたえがあるが、内容はやや消化不良
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ホロコーストなど無かったと唱える否定論者によって訴えを起こされたユダヤ教徒のホロコースト研究家女性の実録映画。こういう作品はハリウッドが得意そうだがこちらはイギリス映画。なるほど裁判の過程も法律もイギリスの規律に基づいていてアメリカ映画の法廷劇と趣が違う部分もあり新鮮で興味深いところもある。
ただ、もうあまりにも周知の事実にたいして唾を吐きかけた男が浅ましすぎてレイチェル・ワイズ演じる主人公が裁判で負ける気がしないのは法廷劇としては不足なところだろう。最初こそ、アメリカとイギリスの裁判の違いから戸惑ったりティモシー・スポールの口車(小憎たらしい演技が実に巧い!)に惑わされたりと言った様子も見受けられるが、トム・ウィルキンソンが存在感を増すと同時にワイズに有利に傾いていくのが明らかにわかり、法廷劇としての面白味についてはいくらかもの足らなく感じた。
裁判の行方は、史実が前提として存在する以上は変えることは当然できない。だからこそ今この映画が何を描くのか?というところが本来もっとも重要なところで、それがこの映画には足りないんだと思う。ホロコーストなど無かったと唱える男を通じて、しかしそこから史実を再認識したり再考したりすることはできる。人には人の数だけ信念や理想がありそれが衝突するドラマを見いだすこともできる。ところがこの映画は「ムカつく否定論者をこうしてとっちめました」というだけのものしか存在せず、テーマの深刻さに対して内容はいたって普通の法廷劇に留まったのは、ワイズ、スポール、ウィルキンソンというイギリスの名優たちの演技合戦を前に実にもったいなかったと思った。
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