劇場公開日 2018年9月1日

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「揺蕩う」きみの鳥はうたえる BDさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0揺蕩う

2024年3月14日
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鑑賞方法:VOD

適当にフラフラ遊んで、このままじゃ行けないような気がして、真面目になった気分になって。
やっぱりすぐには変われなくって、適当にフラフラ遊んで。
思春期ってそう言う構造で出来てるんだと思う。(そんな歳でもないか…この三人笑)

その「揺蕩いかた」を、都会でも田舎でもない、情緒がやたらと視界を支配する函館という街を舞台に描いた映画。
柄本佑演じる「僕」はまるで揺蕩うことを美学としているかのような人間。何事にも斜に構え、適当に仕事をサボり、ルームメイトの好漢・静雄に寄りかかりながら毎日を過ごす。

そして、適当に知り合ったバイト先の店長の不倫相手を適当にセ⚪︎レにし、静雄と3人でひたすら遊ぶ。とにかく遊ぶ。部屋で、外で、クラブで。

遊んでるところが、とにかく静かなんですよね。まぁまぁ派手に遊んでるのに。それがこの映画の描写上の特徴。劇中音楽も、そんなコンセプトのもとに作られているのかなという感じ。

怠惰な若さの、ふわふわと浮かんでいるかのような心地よさの表現を目指したんだと思います。なので、これがダメな人にはダメかな笑 と思いました。私は好きでした。クラブミュージックの無記名性も良かった。(途中カラオケのオリビアはその面では逆に意味がありすぎたかも。そこだけ「花束」みたいだったな)

クラブのシーン、長いという声もありましたが、この3人が特段セリフもなくフリーフォームのような「遊ぶ」というシーンを、ホントに楽しそうに演じてましたね。遊んでたんでしょうね3人とも笑 学生の頃たまーに全然毛色の違う友人にクラブに連れてかれて、踊る友達をよそに隅っこで飲んでたことありましたけど、あんな感じあんな感じ、と思いました。

そんな「僕」も時には熱くなる。なんかムカつく時がある。それは、「分かってない」書店同僚の森口が、知ったふうな口を聞いた時。

「率直で気持ちのいい、空気のような男」になりたいと思っている「僕」。斜に構えてる裏には、どこか自分に自信がなく、何かを叶えることが申し訳なく思えるような自己否定感がある。だから、何一つ芯を食っていない癖に断言調で言い放つ男には言い知れぬ不快感を感じたのかも知れません。

揺蕩う中でも「そうじゃねーよな」って感じる時、あると思うんです。そうなって初めて、自分が真面目な感覚を持ってることや、熱い気持ちがあることに気づく。この気持ちってなんだろう?そこと向き合って、だんだん人間は「揺蕩い」をやめ、卒業していくと思うんです。

佐知子への気持ちもそうで、最初と最後の「10カウント」には、「僕」の心の真摯な部分が出てくる、この映画の数少ない場所ですよね。

でも、若いが故にそのタイミングにはズレがあり。「僕」と佐知子のギクシャクはまさにそこだと思うんですよね。二人とも同じようにユラユラしてた癖に、真面目のタイミングがちょっと違うとこうなる。

ラストは濁しエンドでしたが、佐知子はじゃあ静雄と付き合って上手くいくのかなぁ…。そんな性根じゃないと思うんですよね笑 どっちかというと「僕」側でしょう、と。結局は三人、離れ離れになって何もなく過ごしていくのかも知れないなぁと思いました。短い間に誰かと強烈に親密になり、嘘だったかのように離れていく。これも若さの特権。

好きなタイプの青春映画でしたよ。大人になれない三人が、大人になれそうでやっぱりなれない函館の話。

BD