「「やっぱり誠実じゃないんだね」」きみの鳥はうたえる いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「やっぱり誠実じゃないんだね」
原作は未読。しかしその構成力はかなりの完成度の高さを窺える。純文学の映画化というカテゴリとしては秀逸なストーリー構成だと唸らせれる。
展開も不規則なスピードで進み、緩慢と唐突が変拍子で畳み掛けられる。そもそも、情報を観ずに思い込みも手伝って染谷の役が主人公かと勘違いしていたら、まさかの柄本の役のナレーションが流れるのが意外であった。そして、その間に入ってくる女の見た目と恋愛観のギャップ。そう、今作品はギャップ萌え、ゲインロス効果がかなりの演出を影響足らしめているのである。
それぞれ3人の群像劇的シーン割りもあるが、あまり細かくは説明はされない。ましてや回想シーン等もないので内容自体にはあまり思い入れを抱かせないような造りにはなっている。それよりも、今現在の3人のそれぞれの思い濃淡となって演じられているように感じる。何を考えているか分らないような煙を蒔くようなイメージは3人の共通項なのだが、そんな3人が“ドリカム”状態になったとき、その化学反応が徐々に沸き上がる流れだ。女がフラフラする様、どことなく狂気を秘めてる男、狂気が漏れてしまう男。しかし周りの大人達の色々な言動に接する内に女に対する想いが徐々に正直になってゆく。そしてラストは正に圧巻である。オープニングの“待ち”の気持を表現した“数を数える迄に来る”というフリから、クライマックスのその数を数える事自体が馬鹿馬鹿しくなり、自ら走り帰り、そして今までの嘘と、そして正直な想いと、上司を馬鹿にしていた筈の少なからずの嫉妬心が綯い交ぜになったようなそんな複雑さで告白をする。そして女の何とも言えない顔。。。石橋静河の非凡さがここでも開花している場面である。あれだけの複雑な心情をここまで表現した顔を他作品で観たことがない位、喜び悲しみ怒り落胆の全てをモザイク状に表現した顔は本当に白眉である。このクライマックスの為にここまでのストーリーという“フリ”が全て回収される大変良く出来た作品だ。それまでのトリッキーなリズムをラストで全て帳尻合わす緻密さに賛辞を贈りたいと思わせる大変良く出来た内容であった。これまでの若い乾いたそして“ええかっこしい”クールな青春が、しかしはっきりと大人のドロドロさ、執着、そして“本気さ”に否応なしに参加していくテーマを見事に表現していた希有な映画である。