「彼らを地球に連れてきてはいけないのだけど…」ライフ(2017) 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
彼らを地球に連れてきてはいけないのだけど…
異星生物が敵意もあらわに宇宙船乗組員を襲う話だと聞くと、直ぐSFスリラーの傑作「エイリアン」(1979年)を思い出します。本作は、その焼き直しなのでしょうか。亜流にみえる。
しかし、物語は似ているけれど、SFXが発達した今日、細部は至って実にリアルティにこだわって作られている分、次々異星生物の餌食になっていく乗員のシーンには、衝撃を強く感じました。大人の鑑賞に堪えうる上質な作品といえるでしょう。
本作を一口に言えば、「エイリアン」で、圧倒的な強敵を前にしても果敢に闘ったヒロイン、エレン・リプリーにあたるがいなくて、やられっぱなしなストーリーなのです。こう書けば、現場となる国際宇宙ステーション(以下ISSと表記)が置かれた状況が、いかに絶望的な状況か察しがつくのではないかと思います。
物語は、ISSで働く宇宙飛行士6人が、未知の生命体に襲われるSFホラー。きっかけは、ISSが、火星で採取した土壌を分析し、生命が存在するか調べることを使命としていて、ついに火星の土壌のなかからアメーバ状の微生物を発見したことから、始まります。史上初の地球外生命体の発見だと飛行士たちも、地球の基地のスタッフも世紀の大発見に沸き返ります。
しかし、実験の過程でサンプルが知性を持つようになったことが判明します。しかもヒトデのような形状に成長したそれは、友好的ではありませんでした。やがて乗組員の1人を惨殺し、実験室から逃走するのです。そして、ISSの通信システムが故障し、残った5人は宇宙で孤立することに。急速に成長するサンプルによってISSに閉じ込められたクルーは、地球を守るために孤立無援の状況下で戦うことを余儀なくされていくのでした。
未知の生命体は、タコ×クラゲ×エイのような不気味な姿に進化していきました。報知試写会の担当者宮本氏が上映前に、当分たこ焼きを食べたくなくなったと語ったのも頷けます。とにかく煮ても焼いても死なないという設定は、不死身過ぎて、ギャグなのか疑ってしまうほど。だけれど、サスペンスに突入する最初と二番目の犠牲者が出るシーンでは、残酷さ描写が凄すぎて、息が詰まる程でした。
キャッチコピーにある、「彼らを地球に連れてきてはいけない」という言葉に連なる生き残った乗員がISSが脱出するシーンや連絡が途絶えた宇宙ステーションの実情を調べるため救援用の宇宙飛行船が接近してくるシーンでは、いい意味で予想を裏切ってくれて、本作を印象づよいものにしています。
物語は、日常の生活とはかけ離れた、宇宙空間での物語です。それでも戦慄を感じてしまうのは、現実に火星探索が始まろうとしているから。2021年に火星到達をめざす探査機の開発も進んでいる時代であり、火星に水が現存する証拠があるとNASAが発表した昨今。だからこそ、描かれていることが、そう遠くない未来の話の思えてくるわけです。もしかしたらと、物語は微妙に現実味を感じさせてくれるわけです。
それに追い打ちをかけるように、現実味を感じさせるのが、異星生物の設定。これまでの作品のように、高度な知能を最初から有して登場するのでなく、休眠中の単細胞がある環境設定に適応して、細胞分裂していくというもの。これなら、宇宙人の存在を認めない人でも、肯定することでしょう。当初は、ヒトデのような形状の生命体が、巨大なモンスターに変貌(へんぼう)する。その過程を詳細に描いていて、現実味を感じさせてくれるわけです。
さらに、前途したように映像技術の最新の成果がふんだんに盛られていることです。例えば精密なISS内部、無重力状態のワイヤワーク、自在なカメラアングルなど重力を微塵も感じさせない浮遊感たっぷりの映像は圧巻です。ISSの内部構造は隙間だらけで、どこからでも襲われそうなところが、逆に緊迫感を生んでいるといえるでしょう。
ところで、これまでのエイリアン物には、地球侵略には彼らなりの動機が語られていました。でも本作の異星生物が人間に迫るのは、至ってシンプル。それは地上で肉食獣が人間を襲うのと同じで、自らの生命を守るためにすぎない理由からなのです。このシンプルさと、シンプルゆえの生存欲からくる執念深さこそ、本作の一番の趣向かもしれません。
もちろんスリラーとして楽しめる作品であはあります。ただ描かれている内容には、未知なる存在への畏敬の念ほ潜ませており、科学技術が進歩した人類が、何でも分かったつもりになって、軽く考えてはいけないという警告が込められている快作であるといえるでしょう。
ただどうしても、どことなく漂うB級感は否めません。3人目以降、異星生物の攻撃パターンが見慣れてくると、だいたい先が読めるようになってくるからです。また閉鎖された宇宙ステーションのなかでは、発生するアクシデントも自ずと限られてたことでしかありません。
出演者の中ではジェイク・ギレンホールやライアン・レイノルズなど出演していて、必ずしもB級作品と定義づけにくいところではあります。ただ有名無名にかかわらず、誰が最初に死んでもおかしくない、予想をつけさせない演出は、段取りじみたものでない恐怖感を醸し出していて秀逸と言えます。
加えて、同じ日本人として誇らしくなるのが、システムエンジニア役として真田広之が、堂々たる演技を見せているところです。真田ファンなら必見ですね。