「感染とドス黒い社会縮図の始まり」ソウル・ステーション パンデミック 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
感染とドス黒い社会縮図の始まり
『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚アニメ。
『新感染~』でニュースでチラッと描かれていたソウル駅周辺の“暴動事件”。無論暴動事件などではなく、爆発的感染の始まりが明かされる…。
監督のヨン・サンホは本来はアニメーションの監督。なので本作が本来のフィールドで、その手腕をたっぷりと披露。
アクションやテンポやスケールはあちらかもしれないが、えげつなさはむしろこちらの方が強烈。
緊迫感や絶望感も充分だし、ゾンビやグロ描写もなかなかのもの。
キャラ造型や画のタッチも客媚びや萌えとは一切無縁で、ハリウッドや日本の超人気アニメが好きな人は間違いなく拒絶反応起こしそうだが、作風にぴったりのこのタッチがとてもいい。
えげつないのは人間模様。
『新感染~』でもクソゲスのバス会社重役が居たが、本作で描かれる人間描写は韓国社会の縮図。
貧乏人、下層階級、ホームレス…。
そういった人々への社会の冷酷さ。
見下し、突き放し、助けを求めても助けようとしない。それどころか、「失せろ、クソが!」と罵る。
本当に韓国社会や韓国人ってこうなのか…?
勿論そうではない人々も大勢居るだろうし、日本やアメリカにだってそんな連中は絶対居る。
別にこれは韓国映画云々ではなく、世界何処にでもある格差・権力の振りかざしを、極限状態下に置き換えて、人のドス黒いエゴを絡ませて、痛烈に描いているのだ。
単なるアニメーション監督じゃなく、社会派アニメーションの名に偽りは無い。
実を言うと、期待してたものとはちょっと違った。
『新感染~』でもチラッと触れられていた感染の原因が描かれるのかと思いきや、『新感染~』直前の別場所で起きた事件。感染の原因ではなく、感染の始まりといった感じ。
主人公の若い女性の声を若手実力派のシム・ウンギョンが担当し、『新感染~』での“駆け込みゾンビ”も彼女が演じていたので、ひょっとして同一人物?…など鮮やかなリンクや繋がりを期待していたが、そうでもなく。
『新感染~』の方がエンタメ度が高く、途中まであちらの方が面白いかなと思っていたら!
クライマックスで衝撃の大化け!
ヒモ恋人と喧嘩し、ソウルの街をさ迷う内にゾンビに襲われるヘスン。
そんな彼女をヒモ恋人と彼女の父親が助けようとするのだが、この父親が…!
この後味の悪さ、これこれ、これぞ韓国映画の味!
ヨン・サンホ監督にはアニメと実写両方で手腕を奮って貰って、エンタメは勿論、強烈に世に怒りを訴えていってほしい。
で、『我は神なり』は本作を上回る強烈なえげつなさなんだとか。
一体、どんなもんなんじゃ…。
追記
ちょいと調べてみたら、シム・ウンギョンの役は同一人物なんだとか。
でも、それにしては服装も違うし、こちらは最後完全にゾンビになるのに、あちらではゾンビになり始めで、ちょっと辻褄が…。