劇場公開日 2017年9月30日

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ソウル・ステーション パンデミック : 映画評論・批評

2017年9月19日更新

2017年9月30日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

「新感染」の前日譚、それは暗黒の絶望に染まった“ホラー”アニメだった!

ソウル発プサン行きの特急始発列車で起こった感染パニックを描き、韓国の国内外で大ヒットを飛ばした「新感染 ファイナル・エクスプレス」。この堂々たる娯楽大作で実写デビューを飾ったヨン・サンホ監督はもともとアニメ作家であり、そのキャリアにおける長編3作目としてゾンビ映画を発表していた。ソウル駅にたむろするひとりのホームレスが凶暴化したことに端を発する一夜の惨劇。「新感染」とは物語もキャラクターも直接的なつながりはないが、パンデミックの始まりを描いたその映像世界は、配給会社の謳い文句通りに“前日譚”と見なして差し支えない内容だ。

とはいえ「新感染」からの流れで本作を観た人は、誰もがテイストの違いに驚愕するだろう。この2作品はジャンルからして異なる。「新感染」がサバイバル・アクションなら、本作は純然たるホラーなのだ。その明確な差異は“絶望”の度合いにある。今にして思えば「新感染」には、プサンにたどり着けば助かる、きっと登場人物の誰かはそれをやってのけるはずだ、というかすかな希望があった。ところが、この恐るべきホラー・アニメには、そうした心のよりどころがどこにも見当たらないのだ!

もしも突然、ゾンビ=感染者が大量発生すれば、正常な市民はあれよあれよという間に少数派となり、社会秩序もたちまち崩壊する。まさに、それは究極のディザスターだ。本作ではいざというときに市民をさっぱり救ってくれない警察や軍隊の機能不全が描かれるが、そうした痛烈な国家批判はまだ序の口。真の絶望は、格差社会の底辺であえぐ19歳の元風俗嬢ヘスンという主人公の運命を通してあぶり出されていく。

ヘスンはひたすら弱々しい女性であり、劇中で一体のゾンビを倒すシーンさえなく、真夜中のソウルをさまよいながら「家に帰りたい」と泣き叫ぶばかりだ。この世界はパンデミックが勃発する以前から壊れており、生きる希望もとっくに失われていた。ゾンビの餌食となる市民の悲痛な慟哭が、そうした本作のテーマを雄弁に物語る。そして全編を暗黒の絶望に染め上げることによって、このありふれたジャンルに新味をもたらしたヨン監督は、終盤にとっておきの情け容赦ない“ひねり”を炸裂させる。実写に比すればはるかに臨場感には乏しいこのゾンビ映画を、アニメだからといって甘く見てはいけない。あらゆる観客に精神的ダメージを与えるであろうエンディングの威力たるや凄まじく、無力な筆者もそのとてつもなく深い絶望感の感染に巻き込まれたのであった。

高橋諭治

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