劇場公開日 2017年10月28日

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「ニンフォマニアの妻と献身夫」彼女がその名を知らない鳥たち 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ニンフォマニアの妻と献身夫

2017年11月28日
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鑑賞方法:映画館

怖い

難しい

 蒼井優は「東京喰種トーキョーグール」で恐ろしい人食い女を演じて驚かせてくれたが、この作品で演じた役は、ある意味それよりもずっと恐ろしい。

 主人公の十和子は所謂ニンフォマニア、色情狂である。好きなのは背の高い二枚目だ。竹野内豊や松坂桃李といった配役は十和子の願望に添ったものである。電車に乗ってきた男もそうだった。そういった男を見た瞬間に、性欲のスイッチが入り、付き合いはじめると同時に精神的にものめり込んでいく。
 一方の陣治は十和子の夫で、年月を経ても十和子への献身的な情熱は衰えることがない。世間体よりも十和子が第一の異様な情熱である。鬱陶しくも有難いこの情熱を十和子は受け入れ、陣治という船に乗って漂っていく。
 陣治が料理をして二人でそれを食べるシーンが何度となく出てくる。性欲と食欲。どうしようもなく煩悩に翻弄される人間のありようを、アップを多用したカメラワークがフラットに映し出す。

 蒼井優は持って生まれた女らしいフォルムの肉体で、輝く演技をした。陣治の阿部サダヲもエキセントリックな役柄を振り切った演技で見事に表現していた。
 脇役陣も、煩悩から一歩も抜け出せないどうしようもない人間たちになりきっていて、安上がりのテクニックを駆使する女たらしを演じた松坂桃李といい、虚栄心から抜け出せない弱い男を演じた竹野内豊といい、ぴったりと役柄に嵌まっていた。

 エキセントリックであればこそ描ける人間の本質を上手く表現できた名作である。蒼井優、阿部サダヲの両俳優の代表作となるに違いない。

耶馬英彦