「身も蓋もない人間模様を見せつけられるサディスティックなミステリー」彼女がその名を知らない鳥たち Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
身も蓋もない人間模様を見せつけられるサディスティックなミステリー
先月(9月公開)の吉高由里子主演作「ユリゴコロ」に続いて、沼田まほかる原作ミステリーの映画化である。しかも"イヤミスの女王"の病的な人間描写を、「凶悪」(2013)、「日本で一番悪い奴ら」(2016)の白石和彌監督が手掛けるという、期待感を煽るブッキングだ。
白石監督作品はいま、日本の俳優の誰しもが出演したいはず。現に本作では、すべてが最低レベルの登場人物にも関わらず、蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊という俳優がその下劣さを競い合う。監督と俳優がこれだけ揃えば、見応えがあるのは当然。
とくに阿部サダヲはコミカルな役柄の印象が強いので、どうなるのだろうと思いきや、"さすがにそうだよね"になっている。結論、ミステリーとしては王道オチではあるが、阿部サダヲのポジションがそれを最後まで覆い隠している。逆に蒼井優的には近年、こういう最低オンナが似合ってきた…(悲)。
社会派の白石監督は、今年初めに"日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト"の「牝猫」(2017)で、Sex描写だけに終わらないシリアスな社会ドラマ性のポルノ映画を見せられたが、製作時期の近い本作も、蒼井優の濡れ場が多い。
露出度はゼロなのだが、(オッパイがなくても)勝手な妄想を刺激されるし、登場人物たちの下劣さや生活の虚しさがひしひしと伝わってくる描写の巧さは、白石監督×灰原隆裕撮影のさすがのコンビネーションである。面白い表現もいくつかあって、天井から砂が落ちてくるVFXシーンは印象的。
散らかったアパートが象徴する貧乏生活、典型的なサラリーマン生活、ゴージャスなセレブ生活…オトコのレベルに合わせて変幻する受け身なオンナの性(サガ)。収入や外見に関係なく、女たらしのオトコはどこまでも最低だ。目も当てられない、身も蓋もない人間模様を見せつけられるサディスティックな映画である。
(2017/10/30/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)