「黄金のまどろみ」ゴールド 金塊の行方 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
黄金のまどろみ
1995年に実際に起きた事件を主演のマシュー・
マコノヒー製作で映画化した作品、とのことだが……
いやはやこんな冗談みたいな事件が本当にあったんすねえ。
予告編や広告から『黄金なんて最初から無かった』
という結末には薄々勘付いてはいたが(たぶん
本編もそう臭わせる作りになっていたと思うが)、
それを踏まえて観ても、表には出ない主人公ら
の気持ちを読み取りながら観るのが面白い。
テンポ良し、演技良し、カネと金と夢を巡る
アイロニーたっぷりの物語で、端から端まで楽しめた。
* * *
最近のマシュー・マコノヒーは役柄ごとの肉体改造が
スゴすぎて毎回心配になるのだが、今回もバーコード禿げ
&ビールっ腹という、ファンが黄色くない悲鳴を
上げそうな風貌で登場。愚かしいほどに情熱的で、
傲慢ながらも優しい、実に人間臭い主人公ケニーを好演。
地質学者マイクを演じたエドガー・ラミレスも、
終始思い詰めたような表情の裏で色んな感情が
渦巻いていたんだろうなと思わせるし、
ケニーの情熱に惹かれて彼を支えるケイを演じた
B・D・ハワードも良かった。カネや名誉より夢を
追うマイクの姿が好きだったんだろうね、彼女。
* * *
捜査官から真実を話せと言われたケニーは語った。
「金持ちは真実なんて気にしない。知りたくないから
見ない。大金が手に入るなら見ないんだ。それが真実だ」
銀行や投資家達が求めたのは夢ではない。金でもない。カネだ。
おまけにそのカネも現金(げんなま)ではなく
電子掲示板に浮かぶ緑色の数字の羅列だ。
誰もが黄金の発見に浮き足立ったというのに、
誰1人として黄金そのものを目にしていなかった
というのは、なんとも滑稽というか皮肉というか。
結局、ケニー自身が真相をどこまで知っていたのかは
明確には示されない。最後の小切手は、マイクとケニーが
最初から山分けを画策していたとも取れるし、マイクが
裏切りの埋合せとして一方的に送ってきたとも取れる。
実際の事件の方についてはあまり調べていないが、
この作品だけ観て考えるなら、僕は後者だと思う。
というか、その解釈の方が僕は好きである。
* * *
マイクが嘘を吐いたのは、自分に全人生を賭けて
くれた男に対して申し訳が立たないという、
友情と自己保身とがまぜこぜになった感情からか、
それとも自分を蔑ろにし続けた世間をぎゃふんと
言わせたいという想いからだったのか。
恐らくはそれら全部だったんじゃないだろうか。
劇中、思い詰めたような表情を何度も見せるマイクは、
きっとケニーにいつか真相を話そうとしてはいたが、
それがどうしても出来なかったんだと思う。
一方のケニー。
割と早い段階からケニーは『本当は黄金など
存在しない』という事に気付いていた気がする。
なぜって、偉大な父の背中に憧れ、あのハイリスクな
稼業に長年心血を注いできた彼が――
資金も気力も尽きかけた土壇場で「十年に一度」と
言われるほどの埋蔵量を誇る金鉱を発見したり、
視察のタイミングであんな大きな金塊が出たり――
そんな化け物じみた強運を全くの疑念無しに信じたろうか?
1億円の宝クジの当選番号を四度五度も見直すように、
サンプル調査結果を子細にチェックしなかった
なんてことが有り得るだろうか? まさか。
だがケニーはマイクに何も問いたださなかった。
きっとケニーは、事実を確かめる代わりに……
夢から醒めないことを選んだんだと思う。
『自分は、自分の会社を世界に一目置かれる存在に
のし上げたんだ、偉大な探鉱者(プロスペクター)
であった父が誇れる仕事を成し遂げたんだ。』
そんな心地好い夢を少しでも長く見ていたい。
そう望んだんだと思う。
そうすれば、死にかけの彼を落胆させまいと、
馬鹿な嘘を吐いた男と一緒に、夢を見られる。
ケニーもマイクも、口には出さずとも、
お互いの心の内に気付いていたんだろう。
ケニーがマラリアから目覚めて以来、2人は
お互いを起こさないよう眠り続けていたんだろう。
* * *
しかしまあ夢見た本人は満足でも、金持ちな投資家や
銀行屋以外の普通の人々だって迷惑を被った訳で、
夢見るってステキやね!なんてキレイごとじゃすまない話。
一発逆転、一攫千金、ローリスクハイリターン、
信用できそうに思えても、そんなうますぎる話にはご注意を。
残念ながら株式投資するほどの余裕が無い
自分はドリームジャンボ宝くじで我慢します。
当たれ! 1等前後賞込み7億円!
なるべく3000円分で!(もっとうますぎる話)
<2017.06.01鑑賞>