「絶望と希望を描いた、偉大な続編」T2 トレインスポッティング kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望と希望を描いた、偉大な続編
前作から20年後、T2の登場人物ちはその間何者にもなれずにただ年を取っただけだった。何も積み重ねることなかった中年の姿はあまりに悲惨。レントンやシックボーイはまだまだ外見的な格好良さはあるものの、内面が空っぽなので本当に痛々しい。
ただ、それを自己責任と切って捨てられないようにも思える。ベグビーの「俺たちの時代はチャンスがなかった」と言うセリフや、デート中にヴェロニカに対して一席ぶったレントンの言葉からは、自分の力ではどうにもならなかった悲しみも感じる。実際レントンはパクった金を元手に頑張ったがダメだったのだ。
彼らには、具体的なチャンスの無さだけではなく、「どうせ自分は意味ある人生を送れない」といった諦めが深く刻まれているように思えた。
しかし、この作品には希望も描かれている。スパッドの再生物語がそれだ。
ヴェロニカの言葉で自分の中に眠る可能性を直観したスパッドは、何かに導かれるように小説を書き始める。彼は人生に意味を見出したのだ。すると、20年止められなかったドラッグを止めることに成功する。心の奥底が変わると現実も自動的に変わるので、十中八九エンディング以後スパッドは妻のと関係も回復できるだろう。
例え中年であっても人は変わり得ることを伝えてくれる素晴らしいエピソードだ。
ベグビーが良心を思い出すシーンは白眉。スパッドの小説から良心の存在と父親との関係を思い出したベグビーは、家族に愛を伝え、息子を尊重し勇気づけるという今まで見せなかった一面を見せる。あの暴力衝動と支配しか知らないベグビーが、である。
ここで、20年目にしてはじめてベグビーが家族を思いやれる愛を持った人物であること、暴力にまみれた人生を送らざるを得なかった彼の悲しみを知るのだ。
このような深みのある人物描写は前作にはなかったと思う。確かにスピード感やスタイリッシュさは落ちたけれど、内容の濃度はアップしている。続編としてとても意味のある、心に残る名作だったと言えよう。
そして…トレスポと言えば絶対神イギーポップ大先生様の地球史上最高の名曲のひとつ "Lust For Life"である!
今回もプロテスタントから金をパクるシーンとエンディング、2回も流れたので、絶対神の信者である身としては本作品でも神の福音を聴くことが出来、大変な安らぎ(つまりアメージンググレースね)を得たのでありました。