ありがとう、トニ・エルドマンのレビュー・感想・評価
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歪んだ社会に舞い降りた風変わりな天使、エルドマン
ルーマニアのブカレストで経営コンサルティング業に勤しむ娘を訪ねて故郷のドイツからやって来た父親は、娘が仕事上で多用するパフォーマンスとかアウトソーシングとかの新興用語の意味が分からない。しかし、そんな父がバレバレの変装と嘘を使ってまで娘に密着するのは、彼女が決して幸せではないことを知っているからだ。かつては社会主義独裁政権によって支配されていたルーマニアが、今やヨーロッパに於けるビジネスの中心地であることが意外だし、町の片隅にたむろする貧しい移民たち(もしくはロマ)との対比は、急激な変化に対応し切れてないヨーロッパの今を映し出しているかのよう。父が演じるトニ・エルドマンは、そんな歪んだ社会と、資本主義の激流に流されていく娘にそっと手を差し伸べる風変わりなエンジェル。その背中には深い哀切といっぱいのユーモアが漂っている。
「ありがとう」か?
なかなか見応えのある映画でしたが...
Whitneyの歌のシーンが良かった。
パーティシーンがグロすぎてドン引き。
最後がすっきりしなかった。※
邦題はなぜ「ありがとう」なのか? 単純化しすぎだろ。
※最後がすっきりしないのは邦題からもっとカタルシスを期待したせいもあるか。
だとすると邦題の罪は重いな。
100位
2016年にBBCが、世界の批評家177人の選んだ21世紀の映画ベスト100──を発表した。
ふつうだと、このての公的セレクトは、わかりきったタイトルがならんで、おもしろくもなんともないが、この選定は、2000年以降という縛り、且つ、確固たるリテラシーを持ったせかいじゅうの批評家たちの選、なこともあって、ひじょうに興味深いものだった。
知ってのとおりMulholland Drive→花様年華→There Will Be Blood→千と千尋の神隠し→Boyhood・・・とつづいている。
そうだよな、と思うことと、そうなんだ、と思うこと──首肯と発見があり、ものすごく参考になる100選だった。
その選において、トニエルドマンは100位に引っかかっている。
そうだよな、と思ったし、そうなんだ、とも思った。
サンドラヒュラーという女優が出ている。
ヒュラーはHだがuにウムラウトが付いてくる。それでなくてもパッと見て彼女が英米の白人でなくヨーロッパの、とりわけドイツの顔だってことがわかる。とはいえドイツ顔というものがどういう顔なのか知ってるわけじゃないんだが、不思議なもんで、けっこうハッキリわかる。
きれいな人だが、美人と言ってしまうなら、そのモノサシは日本人の持ってるのとは違う。
なんと言うか、アジア人が感ずるところのあっちの人感──モンゴロイドとゲルマンの隔たりを痛感するに足る異質感を持っている。その異質感は好ましい。そして肉感的でない──にもかかわらず、ふしぎな艶っぽさを持っている女優、なのである。
映画は妙。変。
父娘間の葛藤を綴るコメディだが描写はリアルでもあり、コミカルでもある。
また、気まずさもある。そして気まずさは次第に大げさになる。
イネス(サンドラヒュラー)は会社業務と奇態な行動をとる父親との二重ストレスに悩まされている。
終局近く、会社のチームメンバーを招いてホームパーティーをやるのだが、直前にタイトなドレスを脱ぐのに難渋し、そのオブセッションで遂にプッツンと来る。
とっさに裸縛りのパーティーになり、それが、映画内のひとたちと、映画を見ているひとたち──を同時に不協和の渦中へ放り込む。
でも、違和はあるけれど、決して不条理ではない。笑えて泣ける話でもある。
なんで、裸になってしまうの──と思う一方で、その過剰が、快い飛躍を提供している。からだ。
ふつうの映画──という言い方も変だが、ふつうはこんな風に飛躍しない。たんじゅん比較が適切とは思わないが、日本映画だったらなおさらである。
すなわち、男性に性的アピールをする、というもくろみが無ければ、女優は脱がない──わけである。が、この映画は映画的ダイナミズムを提供したのであって、男性客にサービスしたわけじゃない。このクリエイティビティの絶対的格差──がわかるだろうか。
その、裸になってしまうホームパーティーは映画のクライマックスというわけ──ではないのだが、想定外の楽しい飛躍で、みょうになまめかしくもあり、記憶に残っている。
つまり裸にサービスをもくろんでおらず、父娘世代間葛藤をテーマにかかげながら、セクシーな魅力をも提供し得ていた──わけである。映画的ダイナミズムとはそういうもんじゃなかろうか。──なんてね。
BBCの100選に入っていて、そうだよな、と思い、且つそうなんだ、と勉強になった──次第である。
映画で声出して笑うの久しぶり。 痛々しくて身につまされて、こりゃ泣...
映画で声出して笑うの久しぶり。
痛々しくて身につまされて、こりゃ泣けるな!と思ったところで笑わせられっぱなし。
不器用で噛み合わなくて良いセリフも言えない。一発逆転の劇的な事も起きない。現実はそんなもんだよね。笑うしかないよなあ。
娘役の仏頂面がすごい。あとアンカが良い子でたまらん。
レビュー
働き詰めの娘への父親なりの愛情が沁みます✨
ただ、娘の気持ちが痛いほどよく分かるので、あまり自分には刺さらない部分があった😇
働き詰めで稼ぐことが幸せに感じる時もあるし、破天荒なユーモアを受け入れてくれる人が必要な時もある…💦
意味はさっぱり分からないが後味がなぜかよい
オチのないエピソードの積み重ねで映画が進み全体を通してのこれといったエピソードがないので説明が難しい。
後半の全裸パーティはなぜそうなってしまうのか全く意味不明でそれを言えばそもそもトニ・エルドマンなる架空の人物の必然性がさっぱり分からない。映画評などでは「おやじギャグ」と称されているがそれを通り越してキチガイだ。
こんな親は縁を切っておかしくないのだが、イネスはたまにぶち切れこそしても、父親を拒絶しない。このイネスが美人とは言いがたく、あまり笑わないのだが決して非人間的ではなくけっこうドジだったり、また父親に対する家族の情が感じられ、とても好感が持てる。
それに助けられてか、前述どおりキチガイとしか思えない父親も変人だけど根はいい奴と思えてくる。父親もヨーロッパ映画らしく、ブクブクに太っていてシェイプアップに関心さえなさそうなところが真実味がある。
そういう意味では余計なBGMがなく、また意図的なのかハンドカメラで雑に撮っている感じや過剰な演技がないところもヨーロッパ映画らしい。そこに人間味やリアルさがあり、それぞれのエピソードに締まりがないながらも暖かみが感じられる。
そして、イネスのたまに取る突拍子もない行動に、結局のところこの二人は親子だと思え、それがオフビートな笑いを誘う。
2時間半前後の上映時間は途中で気が遠くなるが、観終わったあとに言葉で説明しがたいなりに観て良かったと思える、そんな映画。
俺のアイデアを盗むな!
大きな仕事を任されたイネス(ザンドラ・ヒュラー)。仕事が終わってもレセプション参加、さらには接待と、バリバリ働くスーパーキャリアウーマンといった感じ。大切なプレゼンも控え、忙しい最中に会社にひょいと現れた父親ヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)。しょうがないからと、会社関係のレセプションに連れていくことになった。そんな大切な場所において、「娘の代わりに娘を雇った」だの平気で顧客にまでしゃべりかけてしまう。
「お前、人間か?」などと多忙な娘に対して驚きを隠せない様子のヴィンフリート。異国の地できびきびと立ち振る舞う娘を心配でしょうがない。お酒の場でも出っ歯の付け歯を付けたり外したりと茶目っ気たっぷりだが、相手にしてみれば不気味に映るに違いない。嫌々ながらも父と共に行動し、ようやく帰国してくれたかと思っていたら、妙なカツラを被って“トニ・エルドマン”と名乗り、会社にまた現れる父。ブーブークッション持参でまたしても娘に迷惑をかけるのだ。トニ・エルドマンとして女子会にまで乱入。「リムジンを待たせているから」と早々と退散するが、本当にリムジン借りているとは(驚)
大事な顧客とも一緒に行動して、珍行動にヤキモキする娘であったが、知り合った女性宅まで連れていかれ、卵のカラーリングなどを教わったかと思ったら、突然ホイットニー・ヒューストンの曲を歌わされる。さすが元音楽教師でもある父の伴奏も上手で、顔を真っ赤にしながら歌いきるイネスの姿にちょっと感動。ストレスを発散して、何かが吹っ切れたような一瞬でした。
イネスの誕生日会で、ドレスのファスナーが上がらなかったために突如全裸パーティと化してしまった。同僚たちが次々と現れる中、毛むくじゃらの怪しい着ぐるみ男がやってきた。異様な雰囲気には驚きと笑い溢れるのだが、それが父だと気づいたイネス。全裸パーティと化したところで何かが弾け飛んだかのようだったが、ここで父の愛情を確信する。
162分という長尺だと知らずに観に行ったおかげで、いつ終わるのかと心配になってしまいました。仕事関係のシーンが多すぎるという点以外は概ね満足できましたが、やっぱり2時間弱くらいに収めてほしかった。
とにかく長くてユルい映画でした。 過保護な父親でこんなことされたら...
とにかく長くてユルい映画でした。
過保護な父親でこんなことされたら嫌だけど、働きすぎって心配する気持ちも分かる。
そんな娘を思う…お父さん切ない。
ですが、、残念ながら響かなかったです。。
童話
イネスあなたは幸せかい?もう少しだけゆとりがあってもいいんじゃない?世間の成功と幸せは全く別物なんだよ。辛い時にはユーモアで切り抜けるんだ。
イネスは私達現代人の象徴で、トニ・エルドマンはまるで、グリム童話から出てきた妖精やトロールに見えました。人間を慰めて、助けてくれる助っ人みたい。
シュールな中にも人間には何が大切かというメッセージが込められた秀作です。私の父親も変わり者なので、なんだか肩の力が抜けてきて、自分がイネスになった気分です。お父さん、たまには逢いに来てね。
良い映画なのは分かる。けど長い
各所で評判の良い映画だったのでレンタルしてきた。
ストーリー的に良い映画なのは分かるし、ラストの例のシーンは感動する……んだけど、やっぱ長いなーと感じてしまう。
BGMもほとんど入らないし、多分1台のカメラでドキュメンタリーみたいな撮り方をしてて、オヤジのギャグは笑えないしね。
それが全部、この映画を語るための計算なのは分かるけど、観てて生理的に正直キツかった。
あと、EU連合の状況なんかを理解してないと、この映画が語ろうとしてるもう一つのテーマは分かりづらいかもしれないとも思った。
ちょっとやり過ぎなお父さん
いんじゃないですか。お父さんは娘のことが心配なんです。
でも、バースデイパーティーのシーンやホテルでのシーンとか、不思議ですよね。このストーリーに必要か?あちらでは日常なのかしら?
The Greatest Love of Allとクケリがいい
説明するための言葉やシーンは希薄でBGMも少なめ、
二人の心情の移ろいはしっかり届いて 引き込まれていった
人間(親子)の不完全さ 不安定さを ただただ慈しむような映画だった
Greatest Love Of All の歌唱で一気に大団円とは成らず、
まだまだ曲折は続いていき birthdayのアレには やられた
さらにダメ押しのクケリには びっくりした
その後の抱擁で暖かい気持ちに包まれた、とってもいい作品
父より愛をこめて
昨年のアカデミー賞外国語映画賞を有力視されながらも、政治的理由で『セールスマン』に破れ…。『セールスマン』はまだ未見だが、自分だったらこちらに一票入れてたかもしれない。
160分のドイツ映画、途中で飽きるかなと思いきや、ずっと気になってて見たい見たいとレンタルを待ってた甲斐があった。
良かった。昨年中に見ていたら、間違いなくBESTに入れていただろう。
普遍的な父と娘の話なのが、分かり易く、見易くていい。すんなり話に入っていける。
クスッと笑えて、しみじみさせて。ペーソスもある。人の温もりたっぷり。
でも、ちょいとクセがある。
と言うのも、この父ちゃんが風変わりと言うか変人と言うか、問題児ならぬ問題父。
父ヴィンフリート。イタズラ好き。必需品は入れ歯のおもちゃ。
冒頭シーンだけで彼の性格が分かる。
宅配業者が荷物を配達に来て、それは弟のだからと呼びに行くと…、変装して弟のフリしてご本人登場。(ちなみに私もこういう配達の仕事をしてるので、こんな親父が出てきたら、あ~面倒クセぇ…と思ってしまう(^^;)
その宅配業者も呆れ顔だが、彼がやってる事は何も相手を困らせよう、迷惑かけようとしてるのではない。悪ふざけでもない。ただただ、相手を楽しませたいだけ。
“ユーモアを忘れるな”がモットー。
確かにちょっと面倒クセぇ親父かもしれないけど、憎めないんだな。
で、ある日父はルーマニアで働く娘に会いに行く。
娘イネス。バリバリのキャリアウーマン。
画に描いたような、マイペースな父と真面目で堅物な娘。
父の気にかけ虚しく、娘は心を開かない。
ある時父は、娘の大事な仕事を邪魔してしまう。
娘はつい当たり、ぎこちない溝を作ってしまう。
勿論娘も悪いと思っている。一応笑顔で父を見送った後、涙をこぼす。
そんな娘の前に父が突然現れるが、それが何と…
“トニ・エルドマン”と名乗る。
カツラを被って、いつもの入れ歯のおもちゃを付けて、バレバレの変装。
“初対面”の時の娘のドン引いた顔と言ったら…!
一応誰かと一緒の時は娘も他人を装うが(と言うか、恥ずかしくて「父なの…」と言えないだけか(^^;)、二人になったら問い詰める。
しかし、それでも他人で突き通す父。
娘も呆れたのか観念したのか、“他人ごっこ”を続けるが…
何故かトニ・エルドマン、娘…いや、イネスの仕事にくっついていく。
時々本当に邪魔だし、ウザイし、うんざりもするが、これまた何故か周りの人に好かれる父…いや、トニ・エルドマン。
そんな父との交流を通して、娘がまた明るさを…というのも勿論込められているが、それより感じたのは、父と娘が遊んでいるのだ。
誰にも小さい頃あった筈。父親が何かに化けて、一緒になって遊んでくれる、アレ。
そんな父に本当にうんざりし、心底面倒臭く思えても、ついつい笑ってしまう一幕も。
きっとこの父娘は、昔はよく一緒に遊んでいたんだろうなぁ、と、そんな背景が見えた。
いつしか遊ばなくなり、距離を置くようになり…。
ペーター・シモニスチェク、サンドラ・フラー、女性監督マーレン・アーデ、恥ずかしながら初めましてで、失礼ながら一本も作品見た事無いが、素晴らしい!
ヴィンフリート役のペーター・シモニスチェクの、大柄だが何処か可愛らしく哀愁も漂う父親像が絶品。
イネス役のサンドラ・フラーはハンサム・ウーマン。
後、少ししか出番無いけど、イネスの秘書の女の子が可愛い~~。
160分、テンポは結構ゆったりだが、飽きさせずじっくり見せるマーレン・アーデ監督の手腕は賞モノ。
また、この手の作品はオチが定番化してるが(例えば、父が実は余命僅かで…とか)、そうじゃないラストも特筆すべき点。ちょっと唐突に終わって好みは分かれるかもしれないが、余韻は残る。
父の意表付く行動は全て、娘を心配して。娘は幸せにやっているか…?
でも、それが伝わらない。
娘も勿論本当は父の事が好き。だけど、つい…。
でも、それが伝えられない。
性格は違えど、根は似た者同士。
だからどうしても不器用にもすれ違ってしまう。
ありふれた父娘愛の話。それがいい。
万国共通。
親子や家族の絆は、何処の国も変わらない。
さて、こんな良作を勿論ハリウッドが放っておく訳がなく、お決まりのリメイク決定。しかも主演に、あのジャック・ニコルソンが映画復帰!
確かにジャック・ニコルソンがこの役を演じるのは見てみたいし、もしリメイク版が成功したらアカデミー賞でも話題になりそうだが、
でもやっぱり、オリジナルのままがいいんだな、このオリジナルが!
心にしみる
田舎出身の独身中年女にはそれはそれは沁みるお話でした。
嫌な意味で心をえぐられるシーンも多々あり。
主人公の女がやな奴なんだこれがまた。
あたしゃ断然父ちゃんを支持するよと力強く宣言したい。
最後の父ちゃんのセリフ、思い出しただけで泣ける。
生きる意味は何か、幸せとは何か。
人は皆、成果ばかりを追い求めている
そのうちに時間が過ぎてしまう。
時間は待ってくれない。
今でも思い出すんだ
自転車の練習をするお前の姿
バス停にお前を回収しに行ったこと
その瞬間はそれがそうとは気づかない。
過ぎ去ってから本当の価値に気づく。
トニエルドマンが自分のもとに現れたことを、きっと、彼女は思い出す時が来る。
親子関係のもどかしさを味わう良作
父親の(あるいは娘の)、奇行ともいえる振る舞い。
その後に訪れる沈黙の時間。
沈黙の下に流れる様々な感情や微妙な距離感を、たっぷり味わうことができます。
話の流れとしては小津の『東京物語』
味わいとしてはベルイマンの『沈黙』を思わせるところがあります。
コメディ要素は映画を駆動するためやネタ的に利用され、散漫な印象ですが、ここを真面目にやってしまうと、観ていてしんどくなってしまうでしょう。
監督なりの想いを感じることができ、観賞後の余韻に浸ることができます。
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