「重厚さと恐怖」ヒトラーへの285枚の葉書 junさんの映画レビュー(感想・評価)
重厚さと恐怖
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少ない登場人物ながら、冒頭から恐怖政治と密告社会に引きずり込まれます。苦悩する者、従う者、権威に変貌するもの。上から下まで、もはや逃れることのできない我が身保身第一主義の狂気の世界の末期。
「ハンぺル事件」という第二次世界大戦中のベルリンで実際にあった事です。息子が戦死した夫婦がヒトラー批判のポストカードを書いて街中に一枚、一枚と2年以上にも渡って置きつづける。つかまればもちろん死刑は免れない。
なんと無力で無謀で危険な抵抗活動だろう・・・。
子どもへの贖罪、抵抗、心の自由?何が夫婦を突き動かしたのか、事実を推し量るのは難しいが、この夫婦を演じたのエマ・トンプソンとブレンダン・グリーソンによってジワリジワリと自分も突き動かされていくような感覚になる。
パンフレットを見ると原作者ハンス・ファラダ(ペンネーム)についても興味深い。
グリム童話からとったその名前の「ファラダ」は、首を切られても真実を語り続けた馬の名前だそうだ。不遇かつ苦悩の作家が戦後旧ゲシュタポの秘密文書を見て一気に書き上げ、その三ヵ月後には死去。
そして2010年に英訳本が出版され世界的にベストセラーに。そして映画化。で、こうして、ちっぽけで無力な私も観ているというわけだ。
当時、ある夫婦の無謀かつ無力な奇行としか思えないものが、数奇につながって世界中に知らしめられ、影響を及ぼしている。
なんと言うことだろう!彼らのポストカードはこれからも世界中の人に届き続けるのだ!!
この不思議さがこの物語の続きだし、希望ともいえるんじゃないかと思う。
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