「決着の付け方を楽しみに見た」オリエント急行殺人事件 れーぶんさんの映画レビュー(感想・評価)
決着の付け方を楽しみに見た
三谷版以外は試聴し、原作も繰り返し読んでいる身としては、ミステリとしての楽しみはなにもない。
それでも新しいオリエント急行は心待ちにしていた。
原作未読で映画、ドラマを見たことのない人、あるいは、映画そのものの面白さを期待する人と自分とでは、注目しているポイントが違っていると思う。
犯人は当然知っているし、誰がどんな背景を持っているかも全部知っている。犯人を変更したのでないかぎり、驚くようなことも新鮮な点もなにもない。
それでも映画館に足を運んだのは、犯人を指摘する前後のポアロを見比べたかったからだ。
人情裁きハイオッケー大団円!という原作と、スーシェポアロの見せた激しい葛藤。ルメット版も陽性の終わり方だったと記憶しているが、さてブラナー版は?
悪党なら殺していいのか?
それは正義なのか?
法に委ねるべきだと正論を唱えるのはいいが、その法がなんの役にも立たないことを目の当たりにしたら?
ポアロは犯人の正義、善、悪、罪をどう見、どう判断する…どう判断するかは原作から逸脱しないかぎり「見逃す」一択だとしても、どんな思いで見逃すと決めるのか?
そのポアロの判断に関わるであろう、犯人の様子や態度は?
ブラナーポアロは、見逃すわけにはいかない、だから私から逃れたければ私を殺せと銃を与えた。
弾は抜いてあったから、どちらにせよ死者は出ない。(どんな形であれ殺人を幇助するなど、ポアロは決してすまい)
ただ、その銃をどう扱うかで、犯人の中の一人、最も強い怒り、痛み、悲しみを感じたリンダの、善悪や今後がはかられたのだと思う。
どんな相手や動機にせよ、自分の望みのための殺人をまたやるのか? それとも、もう二度としないと信じられるのか?
ずらりと並べられたら被疑者たち同様に、大袈裟な、舞台向けのケレンに富んだ演出だとは思うが、この決着はなかなか良かった。
罪は罪だと断じて激高し、見逃すことが激しい葛藤と苦悩の結果であるスーシェポアロが私にとっては一番の好みだが、ブラナーポアロも次回作があるなら是非見に行きたい。
ただ…ナイル? ふーむ…原作ではポアロは殺人が起こる前から現場にいるのだけど、映画では殺人があったからと呼び出されることになる…それとも、呼びに来た理由の殺人は別件で、その解決後に船に乗り、という導入かな?
そういうこまかいことが気になるのも、ミステリ好きならではかw