「善ではなく、正義と悪。」オリエント急行殺人事件 ちゃーはんさんの映画レビュー(感想・評価)
善ではなく、正義と悪。
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オリエント急行殺人事件というタイトルや、巨匠アガサ クリスティーの名は聞いたことがあっても、内容を知らないまま鑑賞。
冒頭、つかみの謎解きシーンの後、海を見渡し、大きく開かれた高台に立つポアロの「正義と悪しかなく、中間はない。」という台詞から、最後の閉鎖的な列車での台詞の対比がよかった。
細かいことは分からないが、結局のところ、「その中間」若しくは、正義にも悪にも収まらない「どこか」に立つポアロになってしまった。世界の、人の、物事の、不完全さを良しとしないポアロが、人の不完全性を受け入れてしまった瞬間。
誰でも内容を知っている作品の映画化は、演出がものをいう。列車に乗る過程での高揚感や人物を特徴付けるスピーディな展開、1930年代の街を駆ける列車、大自然の中これでもかと蒸しながら走る列車の美しい画は、大画面で見れてよかった。
単なる推理映画ではなく、宗教性を孕んだ人間が両方持ち得る正義と悪というテーマの映画として見ると、否定し切れない罪に対する不完全な人間の苦悩に共感を得ると思う。
終盤のトンネルに12人並んで座ったシーンで、託した銃に弾を入れてなかったのは、自殺を予期してなのか、自分を撃つ素振りを見せた瞬間、やはり悪と捉えて裁くつもりだったのか、、今まで断定してきた男の葛藤に満ちた手段にしか見えなかった。
いずれにしても、おそらくポアロは、この事件をきっかけに、変容が起き、休む間も無く起きる事件に対して、二度と中間の判断はせず、苦しみの中で世界の悪を露わにし続けていくことだろう。
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