「新しい演出を取り込みながら進化する"古き良きスパイ映画"」キングスマン ゴールデン・サークル Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
新しい演出を取り込みながら進化する"古き良きスパイ映画"
映画会社の作為的な続編やシリーズ化が多い中で、個人的にこれほど続編を待望していた作品はない。
しかし続編は、主人公のハリー(コリン・ファレル)が死んでしまっているので、半ばあきらめてはいた。若きエグジー(タロン・エガートン)だけでは、"キングスマン"の風格に満たないのではなかろうかという不安である。
しかしそんな心配を吹き飛ばす、快作である。先に言ってしまうと、ハリーが蘇るのだ。そしておそらくオジサンたちが狂喜乱舞するのは、エルトン・ジョン(本人役)が俳優として大活躍するのである。カメオ出演ではない。これは観てからのお楽しみ。
オープニングは、「ベイビー・ドライバー」(2017)の影響を受けたかのような音楽とシンクロするカーアクション。プリンスの「レッツ・ゴー・クレイジー」を1曲まるまる使って、ビシッと決まる。これからのカーアクションはこの手が増えていくことになるのだろうか…。
今回は、いきなり"キングスマン"の組織すべてが崩壊するところから始まる。前回、主人公を殺してしまったマシュー・ヴォーン監督にはタブーがないのか。今後を考えると残しておきたい、あの人もこの人も今回たいへんなことになる。
逆に、"紳士"として役不足と思われたエグジーを、"貴族"レベル(笑)まで成長させ、さらに新しいキャラクターを仕込んでいるところがさすがである。
さて、本作は"スパイ・クラシカル(古典)"である。それを分かって観るのと、知らないのとでは、おそらく感想に大きな隔たりができてしまう。"クルマ"や"傘"、"靴"、"ライター"、"メガネ"などのスパイツールの多くは、「007」や「The Avengers」(スパイドラマの方)をオマージュしたもので、"古き良きスパイ映画"の香りがプンプンするのだ。
今回の"ゴールデン・サークル"というサブタイトルも、何となく「007 ゴールドフィンガー」(1964)や「007 ゴールデンアイ」(1995)を彷彿とさせる。
アメコミ好きとしては、マーベルやDC作品の原作者でもあるマーク・ミラーに傾倒していることはもちろん、またマシュー・ヴォーン監督のセンスが好きだ。この絶妙にウィットの効いた暴力描写・性的描写は、人によっては”行き過ぎ”と感じるかもしれない。今回も行き過ぎにブレーキをかける気はないらしい。
崩壊した"キングスマン"が助けを求めたのは、コテコテのアメリカ人諜報組織"ステイツマン"である。とにかく英国ギャグでアメリカ人を馬鹿にしまくる。
"ステイツマン"の本拠地がバーボン蒸留所なのが笑える。お酒好きなら、思わずうなづいてしまうウンチクが詰まっているのが楽しい。バーボンなんて、ウィスキーとは認めない英国人の言動は、スコッチ好きなら当たり前。
また、ジェームス・ボンドのマティーニに様々なバリエーションがあることを引用しているのも、本シリーズのお約束。前作でエグジーのセリフ「もちろんジンで。開いていないベルモットの瓶を眺めて10秒間ステアして」とマティーニを注文する。"それってストレートジンじゃないか"(笑)の”ハード・ドライ・マティーニ”ということになる。
今回は、アメリカということで、ボンドのウォッカ・マティーニならぬ、バーボン・マティーニ(!?)が登場してしまう。これによってエグジーは重要なヒントを得られるわけだが・・・。
しまいには、バーボンの"ステイツマン"が、英国のスコッチ蒸留所を買収してしまう。これはバーボン”ジム・ビーム”のビーム社がアイラウィスキーのラフロイグを傘下に持つという、笑えないリアリティを揶揄している。(そのビーム社もいまや日本のサントリー傘下である。)
楽しすぎて、すでにIMAX版と4DX版で2回観てしまった…。本作はどちらがいいということもなく、普通に2D字幕版でも十分に楽しめるが、画面サイズはデカいほうがいい。またスキー場のシーンで4DXでは"泡"を使った"雪"が実際に降ってくるのが楽しい。
(2018/1/5/TOHOシネマズ新宿/IMAX・シネスコ/字幕:松崎広幸)