「「正しさ」を押し売りしている映画」ドリーム pippo9さんの映画レビュー(感想・評価)
「正しさ」を押し売りしている映画
絶賛のレビューが多い中でこんな意見は恐縮なのですが、正直そこまでの傑作というようには感じませんでした。個人的には脚本が練り込み不足とも感じます。
この映画に好感を持つ人が多いのも分かります。なぜならこの映画が伝えようとしていることは、社会倫理的に「正しい」ことだからです。「正しい」主人公が「正しい」ことをして「正しい」結末を迎える、という映画なので、賛同を得やすい映画ではあります。
ただ、この映画、主人公の「正しさ」との対比として「正しくない人々」が登場しますが、この「正しくない人々」の描き方があまりにも表面的過ぎます。
同僚の白人男性を代表するキャラであるポールは、ただ単にキャサリンに間違いを訂正されるということに終始し、白人女性のミッチェルはあの時代に女性が働いているということで差別される側でもあったはずなのにそこの部分は全く描かれていません。彼らもNASAで働いているということは優秀な人物であり、主人公たちと目標が一緒なはずなのに、彼らが主人公たちと力を合わせるような場面が無いあたりに、映画の作り手側の大人気なさを感じます。
ケビン・コスナー演じるハリソンは忙しいキャラで紹介されてたけど、そんなに忙しいようには見えませんでした。トイレの看板を外すぐらいならわざわざお前がやらなくても業者に任せれば良いじゃん笑
そんなに忙しくなさそう、というのは映画全編がそうで、一応「お母さん、最近帰るの遅いね」的な台詞を子供たちは言いますが、その場面以外で忙しくて家庭生活の方が疎かになってるような描写がそんなに無かった気がします。逆に友達と揃ってパーティを開いてる場面は印象的でした。
プライベート描写のせいで映画全体が鈍重になってる気もします。プライベートの描写は出来るだけカットして100分ぐらいの小ぶりにまとまった作品だったら良かったです。
脚本に関して、映画のラストに宇宙船が無事に大気圏突入出来るのかどうかを盛り上がりポイントとして入れてますが、史実に基づいている映画って言っちゃってるために、「無事に生還できました〜」とか言われても、「うん、そうだろうね」という風にしか思えませんでした。こういう実話ベースの場合は、映画の冒頭に達成された歴史的偉業を持ってきて、そこに至るまでにどの様なドラマがあったのか、ということで観客の興味を引っ張っていく方が良いと思います。
今作は数字の計算における「絶対的な正しさ」と、差別・偏見に対する「社会倫理的正しさ」という2つの「正しさ」がどこか混合してしまっている感じがします。
物語の中に、観客に対して具体的にキャサリンがどの様な計算をしているのかを分かりやすく説明しているが一切無かったために、彼女がどんなに複雑そうな計算を解いても、カタルシス的な盛り上がりは薄かったです。作り手側がそんなに数学の部分に興味が無かったんじゃないかとも思えてしまいます。
記録文章に自分で自分の名前を挿入するあたり、「まあ、正しいことしたにしても、図々しいよね」って思いました。キャサリンからではなく、ハリソンまたはポールからの提案で名前を挿入するという流れならスマートだったと思います。
良かった点としては、差別描写がヘビーじゃ無かった部分です。全体として軽い雰囲気なので、誰でも楽しめる映画であるのは間違いないです。
音楽を含めて軽快な雰囲気は良かったけど、120分は長いかな…。
あとは、メアリーの裁判所での場面はグッと来ました。でもメアリーは本筋とは関係無かったな…。
全体的に現在におけるポリコレ的な「正しさ」を詰め込みすぎたせいでダラダラしてしまった印象です。
社会倫理的な「正しさ」にかまけて映画のネジを締める作業を忘れてしまった感のある映画でした。
「正しさ」を詰め込んだからって良い映画になるわけではないと思います。