「頭脳と技能と行動力で、前例を作った開拓者たち」ドリーム 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
頭脳と技能と行動力で、前例を作った開拓者たち
NASAで働く優秀な黒人女性たち。主に3名の女性に注目し、それぞれの女性がアメリカ社会において成功を勝ち取っていく様子を爽快に描いている。彼女たちはNASA内だけでなく、アメリカという国、そして世界的な新たな「前例」を作った開拓者たちである。それまでなかった概念を作り、それまで閉ざされていた門を開き、それまで見つけられなかったものを見つける。とても困難な道のはずだけれど、それを彼女たちの優秀な技能と頭脳と行動力で乗り越えていくその様子がとにかくとても格好いい。ただ才能が有り優秀であるだけでは足りない。その技能を活かすための頭脳や向学心がなければならない。そしてそれを行動に移せなければ意味がない(この映画には不満を愚痴るだけの女性はどこにもいない)。3人の女性たちにはそれらの力がきちんと備わっていて、それぞれの道でぞれぞれに前例を作り新たな扉を開けてゆく実に爽快で清々しい物語で、かなり勇気をもらった。彼女たちのように優秀ではないけれど、せめて行動力くらいは持ちたいと素直に思う。
もちろん物語の根底には、当時のアメリカにおける人種および性別での差別・偏見が描かれている。黒人の女性たちが当時のアメリカで生きるということがどういうことだったかが率直に描かれていて考えさせられる。しかし一方で、この映画の印象はとても爽やかで心地よい。3人の女性たちは差別を受けても凛として湿っぽく落ち込んだりもしないし、物語のそこかしこに散りばめられたユーモアには素直に笑いがこぼれる。さながらハートフルドラマだとかフィールグッド・ムービーの様相に近しい。かと言って、もしこの映画がまるで微温湯に浸かったようなフィールグッド・ムービーであったならこんなに感動するはずがない。寧ろ、この映画がフィールグッド・ムービーの様式を借用したことこそがこの作品の長所で、そこに強い意義があるようにも思えた。
この映画には、とても大切なことが描かれているし、広く大衆に伝えたいテーマがしっかりとある。でもそれを小難しく重々しく描くだけが能ではない。この作品のようなユーモアと勇気と元気をくれる爽やかで心地よい映画だったからこそ、多くの人がこの作品を愛することが出来、映画のテーマが率直に心に響いた。とっつきにくいシリアスなドラマは一度見れば十分だが、この映画なら何度でも観たくなる。そしてその都度、映画のテーマを振り返ることが出来る。伝えたい深刻な思いだからこそ、あえてユーモアと清々しさをもって投げかけてきたのではないかと感じた。そしてそのやり方は、この映画の主人公の女性たちのスマートさにも重なるような気がした。拳を振り上げることが社会を変えるとは限らない。実際に社会を動かした人のやり方はきっともっとスマートで、彼女たちのように頭で考え、肉体を使って行動し、言葉で主張を伝えること。映画が見せたいのは、差別を受けて悲惨な目に遭う人の気の毒な姿ではなく社会を変えた人々の聡明さであり、またそれを実にスマートに映画に転換させているなぁと思った(一方「未来を花束にして」は拳を振り上げるだけの映画だったのが惜しかった)。
その上、見終わった後でこんなにスッキリ爽快な気分になれるんだから、これはいい映画だよね。