「宇宙を切り口にしたダイバーシティ映画」ドリーム Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙を切り口にしたダイバーシティ映画
今年の第89回アカデミー賞の作品賞にノミネートされていた、超話題作。
米国の宇宙開発機関NASA設立初期の、”マーキュリー計画”を陰で支えた3人のアフリカ系女性スタッフの話。NASAは、1957年のソ連による人工衛星スプートニク1号の成功にショックを受けた米国が、ソ連に対抗するべく設立した、結構にわか仕立ての組織だったことが意外。
歴史映画としては、NASA設立直後の1962年、米国人初の地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士ジョン・グレンのエピソード。つまり第56回アカデミー作品賞ノミネートの「ライトスタッフ」(1984)である。しかし、本作はそっちではなく、主人公キャサリン・ジョンソンの楽屋話を描いているというのがミソ。
3人は、確かにNASAの発展に多大な貢献をしているが、実際には同時期に一緒にいたわけではなく、そこは創作。ネタとしては、とてもいい素材だが、"宇宙開発競争の勝利"や"米国万歳"という観点では、またまた第68回アカデミー賞ノミネートの「アポロ13」(1995)が頭をよぎってしまう、そうなると感動作としては弱い…。ここまでくるとマニアの余計な経験値が悩ましい。
本作はテーマは、"人種差別"や"男女差別"であり、白人男性だけが活躍する、ダイバーシティ概念がなかった頃の、高いハードルを乗り越えた黒人女性たちの強い信念のストーリーとなっている。
当時の知られざる事実もいろいろ出てくる。黒人女性専用トイレがなかったことによる障害、NASAのロケット開発も人力計算だったということ、初めてIBMのメインフレームが導入されたが、NASAの優秀な科学者が使いこなせなかったことなどを知ることができる。
それにしても邦題の「ドリーム」!ってなんだ。原題の「Hidden Figures」のスマートさの足元にも及ばない。直訳すると、"Hidden Figures"="隠された人物"だが、"Figures"には"大物"的な意味合いもあるし、さらに"数字"や"数式"という意味もあって、映画を観るとメチャクチャうなずける。「ドリーム」って邦題をつけた配給担当は、アホか。
(2017/9/30 /TOHOシネマズ新宿 /シネスコ/字幕:長尾絵衣子)