「主人公ハンクを理解すると、すべてが繋がる。」スイス・アーミー・マン HIROKICHIさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公ハンクを理解すると、すべてが繋がる。
実はハートウォーミングなラブストーリー‼︎
冒頭、ポール・ダノ演じる主人公ハンクが漂流した無人島で孤独に耐えかね自殺するシーンから始まり「人は死の間際に走馬灯の様に人生を振り返る…」との台詞もあり、前編 死の間際の妄想的なファンタジーなのかと思ったのですが…。
最終的に、思いを寄せる女性の家の“裏庭”にたどり着いちゃう⁈
エッーー‼︎‼︎(太平洋の無人島)→(オナラジェットボート)→(大きな島 ⇨ 思いを寄せる女性の裏庭)。
と言う事は最初の小さな無人島は、ハンクの絶望した心境を投影した妄想。
現実は… 知的障害を持っ思春期の主人公が思いを寄せる女性の家の裏の森で、首吊り自殺をしようとした所、失敗。川から流れ着いた自殺死体を相手に自信の殻を打ち破り、女性に気持ちを伝えるという心の葛藤を、無人島からの生死を賭けた脱出劇(ジュラシックパーク的)になぞらえ妄想と現実が錯乱した数日間を描いた、青春ラブストーリー(健常者ならただのストーカーなのですがw)。
精神的に未発達であるがこそ、ハンクの発想が全て中二病的でピュア。だからこそ川から流れてきた死体、ダニエル・ラドクリフ演じるメニーとの人間関係の構築がとても自然でコミカルに描かれており、それが物語の角となって奇妙奇天烈なファンタジーの世界観を生み出す事に成功している。
「恋とはなにか? 普通とはなにか?」ハンクの不安・喜び・悲しみ・人間性がジワジワと感じられ、ホッコリした勇気をもらいました。
そしてこの作品の最重要ワード Fart(おなら)w
「生きる」→「食べる」→「出す」→「(健常者の)マナー」→「普通とは?」→『ありのままの自分』いう構図なので、全編見終わった後、すべて納得出来この作品の深さに考えさせられました。
また映像と音楽も、スパイク・ジョーンズのような雰囲気があり、とてもオシャレ♡ そう考えると現実逃避し妄想の世界に入りこんでゆく『かいじゅうたちのいるところ』に近いニュアンスでもありました。
精神障害の主人公/死体ボート・死体水筒・死体マシンガンetc… 通常タブーとされる要素でここまでのファンタジーを創り上げたハートウォーミングな発想力 ‼︎
ダニエル・シャイナート&ダニエル・クワン監督、これからが楽しみな監督です。
ジョンスペさん。
知的障害者の視点を作品のベースにしちゃう発想がステキでしたね。
しかもオチがわかると共に、ジョンスペさんがおっしゃる様に、親子の絆が再生する所が、人を丁寧に描く温かい監督だなと思いました。
“プリズナー”のポール・ダノは悲惨でしたねw。
繊細な感情表現が本当に上手い役者さんですよね。
表向きは奇想天外作品だけに、オモシロ映画として取られるちゃうと残念だなと思い、長々と書いてしまったので、共感してもらえて嬉しいです。
とても的確な評だと思いました。ポール・ダノは、プリズナーズで幼女誘拐犯に疑われてヒュー・ジャックマンにボコ殴りにされた知的障害者役もやっていますし。ラストで海に戻る死体を見て、呆気に取られる周囲のなかで、時に我が子を低能と罵ってしまう父親だけが微笑んだのは、子であるポール・ダノの心の中を少し理解したんだと解釈しました。