「印象に残ったのはメリッサの無表情」パトリオット・デイ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
印象に残ったのはメリッサの無表情
期待したのは、時間を追って危機的状況がエスカレートしていき、それを追う主人公が犯人たちを追い詰めていく執念の攻防みたいなもの。だったのですが、そこはスカされました。いい意味で裏切られたというか、別の人間ドラマに重点を置いてあったので、そちらに引きこまれた感じです。
事件が起きる前の、主要な登場人物の動きを時系列で追っかけているのがなんともじれったくて、すこしだるい印象を受けます。だから、テロが起きる前の前半部分はバッサリ、カットしても良かったんじゃないかと思いました。見終わって、「ああ、そういう意味ね」みたいな納得は、一応あるにはあるのですが、そのためにあの長い前半部分を見せられるのは、たいした苦痛だと思います。
特に印象に残ったのが、メリッサ・ブノア演じる、テロ犯の妻の内面の葛藤を奥深く秘めて、表面は仮面をかぶったように何事にも動じない、強いメンタルを持った女性で、その背景にはシリア難民の悲劇的な生きざまを見て育った人間の、諦念や家族愛、理不尽を受け入れざるを得ない悲しさがあり、それが彼女の無表情に宿っているようでした。どこか無垢な子供を思わせる彼女が、まさかメリッサとは。テレビシリーズで忙しい時間を縫って、こんな印象的な役を演じていたのですね。
反対に、ちょっとがっかりしたのがマーク・ウォールバーグで、彼が主人公として存在する意味あったんでしょうか。もともと、架空の人物像をくみ上げて、物語仕立てにしたようですが、だったら、もう少し話を面白くできただろうに、テロリストの無軌道ぶりに、翻弄される警察機関を象徴する人間のようで、見ていて何の共感も感じませんでした。プロデューサーも兼ねているのなら、自分を客観視できることも大事な要素でしょう。まだ「バーニング・オーシャン」の方が共感できる主人公だったと思います。
犯罪計画を立て、爆弾を作り、ボストンマラソンを標的にテロを実行。次の標的にニューヨークを狙い、無軌道で衝動的な犯行を重ね、追い詰められていく犯人たちが、何を考え、何を勝ち取ろうとしたのか、もっと深く考察してほしかった。良くできたドキュメンタリーフィルムの域にはまって、出られない、映画だという自覚が足りない。すごく残念な映画でした。同じ時期に製作された、クリント・イーストウッド作品に比べて、ずいぶん満足度が低いと思います。