「日本とノルウェー」ヒトラーに屈しなかった国王 FMovさんの映画レビュー(感想・評価)
日本とノルウェー
史実に基づいたフィクションではあるが、この映画を観る前と観た後で、ノルウェーに対するイメージががらりと変わった。
同時に、(個人的に右寄りでも左寄りでもないが)同じ立憲君主制を敷く日本という国、天皇陛下という存在について、深く考えるきっかけになった。
時系列に話が進むので歴史モノを観ているという印象を受けつつも、ハンドカメラで撮られた臨場感溢れる映像や、全編に渡る国の危機という緊迫感により、最後まで目を離すことができなかった。特に、ドイツ軍の艦船が突如霧の中から現れたシーン、ドイツ軍を待ち伏せして銃撃戦になるシーンは手に汗握った。
一方で、一番印象に残ったシーンは、祖父であるホーコン7世が孫たち家族と離ればなれになるところだった。国の一大事に翻弄される王族一家の心理描写も非常に丁寧になされており、もし自分が同じ状況に置かれたら、愛する人のために、祖国のために、家族と離ればなれになることができるだろうかと考えた。
ホーコン7世は、最後まで「祖国のため」という姿勢を貫いていた。自分だけでなく、家族や国民を犠牲にしようとも、祖国のことを第一に考えた。この映画で描かれた3日間の後も、戦争が終わるまで、ナチスドイツに抵抗を続けた。
ノルウェーでは2016年に公開され、社会現象になるほど大ヒットしたというが、ノルウェー国民にも、きっと王の想いが引き継がれているのだろう。自分を犠牲にしてでも、祖国を守ろうとする姿勢。もしこの時代に家族同士、国民同士で分裂していたら、国は滅びてしまっていたかも知れない。
日本も同じく国のトップ?がいるわけだが、ノルウェーとは何かが違うと感じる。もし日本が同じ状況に置かれたら、その時の天皇陛下はどう決断を下されるだろうか、と想像する。同じように国民のために動いてくださると思うが、今は政治への介入が厳しく制限されているから、結果日本が応戦するか、降伏するか、わからない。
また、最近話題の内容だが、例えば、周りの国から軍事的圧力を受けてどうしようもなくなったとき、日本の政治家たちは天皇陛下に助けを求めるだろうか。何だかアメリカに助けを求めそうに思うのは気のせいか。やはり日本は、ノルウェーとは似て非なる存在なのだろうか…。
余談だが、アナ雪はノルウェーがモデルらしいので、皇太子の「オラフ」という名前は絶対忘れなそうだ笑。彼は、父とはまた別に国民の目線で庶民的に生きた、すばらしい王だったとどこかで読んだ。ホーコン7世と彼と、どちらの主張が正しいとかはないと思う。ホーコン7世の兄が王だったデンマークはナチスに降伏したが、それも間違いではないと考える。
そして、全体を通してホーコン7世は無言を貫くシーンが多いのだが、自分はまだ年老いていないし子供もいないので、国王が何を考えてるのかよくわからない部分が多かった。どちらかというと、子供という観点、守られる立場から観てしまっていたように思う。
早く逃げなきゃいけないのにもう一度家に戻る国王を「また帰ってこれるよ」と優しく諭す皇太子…自分はそうできないかもと思った。「早く来て!」と少しイライラしてしまった。子を持ったり歳をとったりすると変わるんだろうか。
映画の題名からは、どんなことにも折れない屈強な人物かと思ったが、がんこで腰も悪いしよろよろしているおじいちゃんで、最初は「思っていた雰囲気と違うな」と思ったが、移動ばかりで疲れていても、ここぞというときには声を張り胸を張り堂々とする場面を観て、ここ数年話題となった天皇陛下の退位についておもいをはせた。年老いたとしても、ホーコン7世は芯はものすごく強い人だったのだろうと想像した。
心残りは、交渉人が報われずとても不憫だったこと。フィクションなのかも知れないが…。
最後が字幕で片付けられていて驚いたが、決断の3日間にフォーカスを当てているということで、納得して会場を後にした。
非常に良い経験をさせていただいた。