「ゾンビ映画は昔も今も、最も切り込んだ文明論なのだ」ディストピア パンドラの少女 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビ映画は昔も今も、最も切り込んだ文明論なのだ
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物語は少女の視点で始まる。この広大かつ絶望的な世界を、針で開けたような小さなのぞき穴から想像させる手法は、どこカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を思わせ、かなり巧みだ。大人たちが少女のもとを訪れるのを通じて適切に主要キャストを紹介していく流れも無駄がない。それでいて車椅子の子供達を集めた授業で語られる「ギリシア神話」は、今起きている現実、これから待ち受ける未来を示唆するもの。これだけの内容を前半部に盛り込めた手腕を評価したい。
「すでに人間じゃなくなっている少女」は冷静で思いやりに満ち、一方、人間であるはずの科学者は、被験者の生命を「必要な犠牲」として切り捨てる冷酷さを持つ。人間とは一体何なのか。その問いはもはや意味をなさなくなっている。パンドラを開けるというテーマを大上段に掲げた本作が「ゾンビ後の世界をどう築くか」に切り込んでいるのも画期的なところ。ゾンビ映画は文明論でもあるのだ。
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