「サメの被害者は、他ならぬステイサムである」MEG ザ・モンスター Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
サメの被害者は、他ならぬステイサムである
落語家の桂枝雀も唱えたように、"緊張と緩和"がお笑いの基本である。そしてそれは"恐怖"も共通する構造である。ホラー映画とコメディ映画がしばしば表裏一体に見えるのも、その概念に基づいている。
第90回アカデミー賞で脚本賞を受賞したホラー映画「ゲット・アウト」(2017)が、"コメディアン"のジョーダン・ピール監督によって作られたことは記憶に新しい。"人種差別"に対するブラックジョークの極みが、恐怖とすり替わる瞬間である。また個人的には"ゾンビ映画"も、"お笑い"と紙一重だ。ゾンビのありえない生態はコメディ要素である。
さて本来、スピルバーグの「ジョーズ」(1975)などを原点とする"サメ映画"は、モンスターパニック映画だった。そんな"サメ映画"も近年、極めてコメディになっている。
代表格は、竜巻にのってサメが襲ってくる「シャークネード」シリーズ(2013年~6作品)の全米大ヒットである。最新作「シャークネード ラスト・チェーンソー」は、ついに4DX版で11月に日本公開が決定している。
そんな"サメ映画"のトレンドを背景に、中国資本のハリウッドブロックバスター映画が組み合わさると、こんな映画ができました。
日本生まれの「トランスフォーマー」を地に落とした中国資本ブロックバスター映画に対する印象は極めて悪い。決まってハリウッドスターを主役に据え、中華系俳優を抱き合わせ、パトロンが作品に関与しすぎて、恥ずかしげもなく過去のハリウッド映画のエッセンスを複製する。
本作「MEG」で中国人の"生け贄"になったのは、ジェイソン・ステイサム。
対するサメは、体長23メートル、体重20トン。クジラをも飲み込む200万年前の伝説サメ、"メガロドン"がよみがえる。"ありえないサメとは何か?"というトレンドをきっちり踏襲する。
この映画の見どころは前半である。"マリアナ海溝の海底の下にさらに深海がある"という設定は悪くない。深海パニックの常とう手段を活用し、ジェイソン・ステイサムは、"人命救助"と"全貌を見せないモンスター"との緊張感を両立させる。このまま終わればいいのに・・・。
サメ映画は90分がいい。この映画の後半は蛇足である。パトロンが「ジョーズ」のマネでも要求したのか、海水浴場でイモ洗い状態の中国人をメガロドンに襲わせる。しかしR指定を回避するために、人が飲み込まれても流血しない。笑えないコメディになる。
さらにサメとの闘いの最中に事故死する父親とヒロインの別れが挿入されるが、この父娘にどんな確執や愛情があったのか説明もなく、しらける。そしてヒロインとステイサムをくっつけたくてたまらない。もうあれやこれや詰め込みすぎ。
"血が出ない=サメが怖くない"。怖くないサメと戦うジェイソン・ステイサムの強さだけが際立って、ステイサムファンにはいいかもしれないが、このサメ映画の被害者は、他ならぬステイサムである。
(2018/9/7/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:アンゼたかし)