「ビックリはするが怖くはない」IT イット “それ”が見えたら、終わり。 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
ビックリはするが怖くはない
普段ホラー映画は観ないが、1990年版の『IT』ではペニーワイズが間抜けなピエロにしか見えなかったので、本作ではそこは改良されているのか興味が湧き観ることにした。
やはり日本人なせいか日本のホラー映画を観る自信は今もないが、本作はびっくりするものの、音楽の使い方などで次に何かが起きるタイミングもわかってしまうので、ほとんど怖くなかった。
欧米にはピエロ恐怖症があるらしいが、こちとら日本人なのでピエロは単なる道化者以外の何者でもなく全くピンと来ない。
以前デアゴスティーニから『マーダー・ケースブック』という猟奇的殺人者を詳細に紹介した週間分冊百科が刊行されていたが、ペニーワイズのモデルになったジョン・ゲイシーも3号で扱われている。
ゲイシーはピエロの格好をして6年で33人の少年たちを自宅などに誘い入れて性的暴行した上に殺害していた男になるが、この3号を読んでいた時の背筋に覚えたうそ寒さの方が強烈である。
筆者はこのシリーズを創刊号から買い始めたが、フロイトの環境心理学に支配されたかのように、どの犯罪者の犯罪動機も幼児体験のトラウマなどを理由にしているのが共通していてつまらなく思えたのと、単純に読むのが苦痛になってきたので、結局13号ぐらいで買いやめてしまった。
筆者が高校生の時は東京以外は神奈川であれ千葉であれ埼玉であれ、2つの全く別の映画を1回分の料金を払うだけで鑑賞することができた。例えば『ターミネーター2』と『マイ・プライベート・アイダホ』を同時上映するなど。
当時千葉に住んでいた筆者は地元周辺で上映していなかった観たい作品が大宮で上映しているのを知ったので、わざわざ休日に早起きをして電車を乗り継いで観に行った。
今や本命のその映画が何だったのか記憶も定かでないが、同時上映が『オーメン4』だった。
いざ同作を観る段になって周りを見渡すと、客席が300〜400ほどあるだろうだだっ広い劇場に筆者も含めて4人しか客がいなかった。
顔ぶれは、1人は中年のおじさん、1組の中年のカップル、そして筆者の4人だったが、座る場所はまばらであったためさあ大変、ほとんど1人で観ているのと同じ感覚に襲われ怖いのなんの、この時ほど映画館でチビりそうになったことは後にも先にもない。
上映後はあまりの恐怖に力が抜けた足腰はガクガク、頭は茫然自失でフラフラだった。
この日は大宮で他にも2作品同時上映を観たはずなのだが、『オーメン4』以外の3作品を全く覚えていない。
この時の経験に比べれば、本作など平気の平左である。
最近ラヴクラフトの小説を漫画化した田辺剛の作品を読んでいたせいもあってか、デリーという田舎町に土着するイットはどこかそれらに登場するクトゥルー神話の得体のしれない生命体を連想させる。
スタンリーがモディリアーニの描いたような細長い女性の顔を怖がる描写は監督のアンディ・ムスキエティが実際に子どもの時に抱いた感覚を下敷きにしているという話だが、たしかに見ようによっては三白眼の細長い顔は怖いかもしれない。
ペニーワイズに扮したビル・スカルスガルドは『シンプル・シモン』においてアスペルガー症状群の主人公シモンを演じていたが、メイクのために筆者には全くわからなかった。
日本のホラー映画は主人公たちが最後まで巻き込まれ、場合によっては死んでしまうケースもあるので心理的に参ってしまうことが多いが、本作はさすが米作品である、子どもたちが一致団結して最後にはイットを撃退する。
途中からは冒険活劇の様相も加わるので余計に怖くなくなる。
ただ子どもたちはオーディションで選ばれただだけあって全員しっかりした演技をしているのには感心する。
さて無事本編が終了してエンドロールが流れる前に「It」のタイトルがデカデカとスクリーンに映し出される。
しかしその後に「Chapter1(第1章)」の文字が…んんん?
昔観た『It』の内容なんて覚えていないこちらのミスと言われればそれまでだが、これはないだろう!
『ホビット』の時にも感じたが、日本の配給会社も含めたハリウッドの詐欺まがいの商法はいかがなものか。
2章や3章がある続き物なら観ないという客もいるはずである。
エンドロールが終わった後に流れるペニーワイズの高笑いは予想通りであったが、まさに「次回も観なきゃね」と言わんばかりの制作側の悪魔の笑いにしか聞こえなかった。
次回は大人パートかぁ…まあ、仕方ない…観てやるよ。
本作は来年公開予定の同じくスティーヴン・キングの作品『ダーク・タワー』にも関係深い作品なのだとか。
同作は角川文庫からのシリーズ全7作品の刊行が最近終わったばかりだ。
買いはしたがまだ読んでいないものの、原作も映画もともに楽しみにしている。
『It』の原作小説は気が向いたら読むかもしれないが、まずは『ダーク・タワー』に取りかかろうと思う。