劇場公開日 2017年11月3日

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「お化け屋敷の域を出ていないが,怖い」IT イット “それ”が見えたら、終わり。 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0お化け屋敷の域を出ていないが,怖い

2017年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

字幕版を鑑賞。スティーブン・キングの原作は 1986 年に書かれたもので,この物語の不気味なピエロ・ペニーワイズのモデルになったのは,1970 年代に実在した連続殺人犯で,子供の気を引こうとピエロの格好で町内のイベントなどに現れていたジョン・ゲイシーである。ゲイシーは資産家の名士でチャリティー活動にも熱心な模範的市民だと思われていたが,アルバイト料の支払いなどの名目で呼び寄せた少年に性的暴行を加えたうえで殺害し,その遺体を自宅地下および近くの川に遺棄した男で,その被害者の数は 33 人にも及んでいた。

キングの原作は,「20 世紀少年」と似たような構成で,登場人物の子供時代と壮年時代が錯綜する形式で書かれており,本作はその子供時代の話だけをまとめて映画化したものである。1990 年に映画化とテレビドラマ化されており,本作はそのリメイクである。キングの作品はホラー作品がメインであるが,登場する人物にも,ちょっとあり得ないような腐り果てた悪人が登場し,おそらくキングほど悪人を上手く描ける小説家はいないのではないかと思えるほどである。

キングの作品はそのホラー的要素が強調されるあまり,映画化作品はゲテモノ趣味やお化け屋敷に陥ってしまうことが多く,真価を発揮しているとは到底思えないものが多いのが残念であるが,極めて稀に「グリーンマイル」のように観た者を救済してくれるほどの成功作に出くわすことがあり,その時の感動はちょっと他では得られないほどのものである。本作の原作も本来はそういう話なのであるが,残念ながらお化け屋敷の域を出ていなかった。

ただ,そうは言っても,流石にホラーを極めたキング作品だけあって,その恐怖演出は半端なかった。ここでこう現れたら嫌だなぁと思っていると大概そのような現れ方をした。椅子から飛び上がりそうになったことが少なくとも数回はあった。客席はほぼ満席で,私の両側に見知らぬ人物が座っていたが,私が驚かなかったような場面でも彼らが驚いてビクッと身動きするのが伝わってきて,それでこちらもつられてビクッとなるというような思わぬ効果も何度かあって面白かった。

本作の特徴は,各人が潜在的に持っている恐怖がそれぞれ違っているというところに着目している点であるが,ある者の恐怖対象は必ずしも他人の恐怖にはならないことも多いはずであるし,また,それが自分にしか見えないという設定の方が怖かったはずなのに,他人にも見えてしまうというのはどうなのかと思った。最初の被害者の襲われ方があまりに酷く,あまりに理不尽であると思い,またその見せ方も非常に怖かったので後続に期待したのだが,徐々に怖さが低下してしまったのが残念であった。

役者は子役がメインであったためもあり,無名の人が多かったが,ピエロのペニーワイズを演じた役者が平素は非常にイケメンであったのが,怖さを倍加させていたように思う。ヒロイン役の女優は,幼さと大人っぽさの中間という感じが良く出ていて好演だったと思う。音楽担当は聞いたことのない名前の人であったが,非常に素晴らしい音楽をつけていたと思った。

蘇生することができたりできなかったりする違いは何なのかとか,襲い方が毎回違うのはどうなのかとか,演出には不満があった。少なくとも,化け物が正体を現してからはひたすらジョーズのように襲いかかってくれた方が恐怖は増したはずである。恐怖を演出するのに音の重要性は欠かせないのだが,音量で押しまくるようなところが感じられたのでは,やはりお化け屋敷ではないかと思えてしまった。また,襲いかかる敵と1対1で立ち向かうから怖いのに,最後の方は自ら怖さを捨ててしまっていたのではないかと惜しまれた。続編に期待しよう。
(映像5+脚本3+役者4+音楽5+演出4)×4= 84 点。

アラ古希