「哲学的ゾンビ映画」新感染 ファイナル・エクスプレス しいらさんの映画レビュー(感想・評価)
哲学的ゾンビ映画
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二度観た。一度目は息を呑んで手に汗を握りながら、二度目は伏線にも目を配りながらじっくりと。三人の男たちそれぞれの死に方が本当に崇高で、シェイクスピアの悲劇を観ているようだった。ロミオとジュリエットのように愛に殉じた若者、まだ見ぬ我が子に名を与えたことで父になった男、他人と助けあうことを通して本当の大人になり、娘の涙に浄化されて本当の父親になった男。いま思い返しても胸に迫る。
でも彼らはいわば身内のために体を張ったわけで、その意味では当然のことと言えなくもない。恋人や妻や子どものために自分を犠牲にするのはあり得ることだから。
だがあの運転士、飄々として激高もせず、さほどの悲壮感も漂わせず、淡々とやるべきことをやっていたあの人こそは真のヒーローではないだろうか。
彼の行動を支えたのは運転士としての職業倫理だろうけど、生きるか死ぬかの場面でそれを保てる人がどれだけいるだろう。
あの運転士はセウォル号事件を経験した韓国の人々の願いなのかもしれない。高校生たちを置き去りにして船から我れ先に逃げ出したあの惨めな船長の姿に深く傷ついた韓国の人たちの。そう気づいた時、涙が出た。
深読みが過ぎるかもしれないけど、そんなことまでいろいろ考えさせる哲学的、文学的なゾンビ映画だった。もう一度観たい。
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