「何から何まで新しい。ScreenXオリジナル映画であることを忘れずに!」新感染 ファイナル・エクスプレス Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
何から何まで新しい。ScreenXオリジナル映画であることを忘れずに!
原題は"부산행"="釜山行き"である。へなちょこ邦題だが、改悪と言うほどマーケティング的には結果オーライなので、あんまりイジルのはやめとこう。
時速300キロ超で疾走する超特急で起きるウィルス性のパンデミック。密室化した車内を舞台にした新機軸のゾンビパニック映画だ。
妻と別居中のファンドマネージャーのソクは、ひとり娘のスアンに"誕生日のプレゼントに何がほしい?"と聞くと、"釜山にいってお母さんに会いたい"と言われ、しぶしぶ了承する。翌日、ソウル駅に向かった二人は、釜山行きの韓国高速鉄道(KTX)に乗り込む。
カンヌのミッドナイト・スクリーニング部門の特別招待作品のほか、ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭で監督賞・視覚効果賞と、いわゆるSF・特撮系アワードの世界的評価を受けている。
ゾンビ映画の必須条件は踏まえつつ、舞台が高速移動するという設定が新しい。ゾンビの移動スピードや筋力、跳躍力、俊敏性は年々パワーアップしているが、襲うゾンビと逃げる人が同時に移動してしまうのが面白い。さらに素晴らしいのは、本作がゾンビ映画にあるまじき"人間ドラマ"だということ。
"結末に泣いた"という声は大げさだが、主人公が、株式や金融商品を扱うファンド・マネージャーというのがミソだ。"不良債権を切り捨てる"、自分自身と優良顧客は守るが、それ以外は軽く扱う。この構造が、ゾンビに襲われた人々を救うかどうかの判断を揶揄している。"汝、自分を愛するように隣人を愛せよ"というキリスト教の考え方が根底に流れているから、ドラマとしての普遍性があるのだ。
去る7月16日、ジョージ・A・ロメロ(George A. Romero)監督が逝去した。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968)で、ゾンビ映画のスタイルを確立した巨匠である。"ゾンビに襲われた人がゾンビ化する"という吸血鬼的ルールは、ロメロ監督以降のゾンビが世襲してきた。本作はそのロメロが亡くなる前年(2016年作品)に完成した新機軸のゾンビ映画となった。
いいようもない絶望感(世紀末思想)で終わるのがゾンビ映画の美学だとすると、本作はそれを裏切っており、レガシーなゾンビ映画ではない。はたしてロメロはこの映画を観たのだろうか?
ヨン・サンホ監督は、アニメーション映画のベテランである。初の実写映画でこの完成度は驚きであるが、ゾンビの動きやそのカニバリズム表現はマンガ的でもある(そもそもゾンビにリアルというひな型はないが)。実際、本作とペアになるアニメ作品「ソウル・ステーション/パンデミック」(原題:서울역/英題:Seoul Station)も作っており、こちらも9月30日に日本公開される。
アニメ監督が、パニック設定の実写映画を作るといえば、庵野秀明監督の「シン・ゴジラ」(2016)が頭をよぎる。「シン・ゴジラ」にも鉄道ネタがあったが、本作にも象徴的な鉄ネタがある。クライマックスで主人公たちが逃げ込む列車が、なんと超特急"セマウル号"というのが泣けてくる。韓国高速鉄道(KTX)開業以前の最速特急列車で、日本でいうなら"特急つばめ"みたいな歴史的名車である。新旧スター列車を揃えるところがニクイ。
最後に、本作は最新上映にも対応しているのが凄い。ScreenXがヤバすぎる。この作品が事実上、3面マルチスクリーン上映"ScreenX"の国内本格始動である。
すでにUCアクアシティお台場では、7月1日から、「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」のScreenX版がこけら落し作品として公開されていたが、未使用カットを活用した編集映像で左右構成した仕様と異なり、本作では、3面レンズを装備した専用カメラで撮影された、まったく異次元の迫力シーンがある。
ScreenX自体が韓国製なので、オリジナルでScreenX仕様の映画が作れたというわけだ。列車が奥行き方向に長いので、車内を超広角に収めることができる、3面レンズは、車内を埋め尽くして襲いかかるゾンビ、プラットホームや線路を逃げまどう人々を実に効果的にとらえている。
(2017/9/2 /ユナイテッドシネマ アクアシティお台場/ScreenX/吹替翻訳:光瀬憲子)