「虐げられた生活を照らす華やかな絵」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス とえさんの映画レビュー(感想・評価)
虐げられた生活を照らす華やかな絵
カナダで人気の画家 モード・ルイスが夫のエベレットと過ごした日々を描く
私としては、あの「昭和の頑固おやじ」的な夫エベレットの男尊女卑な態度に腹を立てながら観ていた
特に「お前はチキン以下だ」なんていうセリフの精神的虐待度の高さはかなりのものだった
しかし、彼女のそんな悲惨な生活はエベレットと暮らしてから始まったものではなく、幼い頃から、兄の虐待があり、両親が亡くなって預けられた叔母からも虐げられるという不幸の連続が続いていた末のことである
その生活の中で、彼女の描く、この世のものとは思えないカラフルな絵の世界は、モード自身が辛い現実から逃避し、頭の中で思い描いた空想の夢の世界である
辛いことがあるたびに、彼女の手が絵の具や、絵筆を求めていたことがその証である
ということは、モードが幼い頃から虐げられた生活を送り、その裏で空想の世界を膨らませ、それを絵に表現してきたからこそ、彼女は人気画家になったのである
つまり、兄のチャールズや、夫のエベレットの虐待も、意地悪な叔母も、モードにとっては、画家になるために必要な存在だったのだ
それは何とも皮肉な話だと思った
それでも、自由に絵を描かせてくれたエベレットに対し「愛してくれた」とモードが言うのは、彼女があまりにも純粋過ぎて心が痛む
しかし、エベレットがいなければ、モードの絵がこの世に出ることもなかったかもしれないというのも、また事実だろう
多くの人を感動させる素晴らしい絵というのは、時には、誰かの人生の犠牲の元に生まれるものなんだなと思った