「優しくも険しい夫婦愛の物語」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
優しくも険しい夫婦愛の物語
持病を抱えながら、人里離れた小さな家で、独自の作風で絵を描き続け、その絵が評価され著名になった実在の女性。そんな彼女を描いた映画だというと、よくある偉人伝のような伝記映画を想像しやすいけれど(私も、きっとそんな物語なのではないかと思っていた)、実際の作品はそういった趣ではなく、彼女と彼女のことを少々ぶっきらぼうながらも愛情をもって支え続けた夫との夫婦愛がとても美しく描かれていて、とても感動的だった。そしてその感動は、私にドキュメンタリー映画「あなた、その川を渡らないで」を見たときの感動を思い出させたほど。この映画の本質にあるのは紛れもなく「夫婦愛」。モード・ルイスという画家を通じて夫婦愛を正面から描いたラブストーリーで、夫婦の関係は不器用でぎこちなくて、決して「理想の夫婦」とは直結しないものかもしれないのだけれど、まるで主従関係のような男女の関係が、不思議に溶け合って解け合って融け合って、気がつくと水晶のように澄んで綺麗な丸になっていく様子に不思議な説得力があって、お互いにとってお互いが不可欠な存在になっていく感動というか、心が優しく暖まっていくような気分だった。暴君のような男を女の優しさが変えていく、というようなことにロマンを感じるつもりは毛頭ないけれど(DV男を肯定するみたいでそれはとても嫌だ)、でもこの映画はそういうことじゃなくて、ぎこちない二人の絆が本当の夫婦になっていく、その時の愛が優しく丁寧に描かれていてとても良かった。完璧な夫ではない。完璧な妻ではない。でもふたりはとても完璧な夫婦。次第にそう思えてくる。
かねてより大ファンだったけれど、やっぱりサリー・ホーキンスがここでもとても素晴らしい。頑なな夫の心を優しく(まるでモード・ルイスの絵画のように)ほだし、年を重ね、病が進み、夫婦の愛が深まっていく様子を見事に表現。「シェイプ・オブ・ウォーター」の演技も素晴らしかったけれど、この作品の演技も本当に見ごたえがあって本当に良かった。もちろん、年輪を重ねたやつれを渋味に繋げてますます格好よくなっているイーサン・ホークも素晴らしかった。
優しくて愛に溢れて、演技に見応えがあり、温かい感動を感じられるとてもいい映画だった。「あぁいい映画を観た」と、とても自然に思わせてくれるいい映画だった。