「佐藤健の役者力」いぬやしき レントさんの映画レビュー(感想・評価)
佐藤健の役者力
まさに人間の心の中の天使と悪魔のせめぎあいという普遍的テーマを高い画力で描いた人気コミックの実写化。
突然普通の人間が神の力を手に入れてしまったら、という発想で作られた本作。一方は自分の欲望のため、一方は他者の命を守るために戦うことに.。
当時原作を読んだ印象としては高校生の獅子神がその力を使って殺人まで行う理由が明確ではなく、改造されてしまった自分にまだ人間の心が残っているのかを確かめるために行っていたように思う。
神の力を手にした男がもはや人類を超越し徐々に人間社会のモラルや法律に縛られない暴君になってゆく様が丁寧に描かれていればよかった。かたや神の力を得てもそれを私利私欲のためではなく人を救うために使ういぬやしきとの対比がそれでより鮮明になったのではないか。
せっかく今回映画化するのならそのような原作にはない深みを描いてくれたらよかったが、本作はただ原作をなぞっただけであり、映像的にも確かにCGは多用してるものの原作の持つビジュアル力を圧倒するほどのものもない。
演出もあまりいいとは言えない。改造された近眼だった主人公にセリフで見えると言わせたり、目の前で両親を殺された娘にまだ死にたくないなんて冷静なセリフを言わせたり、テレビドラマっぽい演出が目立つ。
脚本的にも、獅子神が父親に指ピストルを向けるのは彼がすでに殺人を繰り返した後でないとこのシーンはスリリングではないし、また最初の殺人から獅子神の逮捕が早すぎて少々端折りすぎ。警察はどうやって犯人だと探り当てたのか。などなど細かいところが気になった。
唯一よかったのは原作と違い二人を生かしたこと。人間の中の天使と悪魔の戦いなんて簡単には決着しないだろうから、無理矢理終わらせた原作よりもいい終わり方だった。
そしてやはり佐藤健が良い。ただ美形というだけでなく、そこはかと愁いを帯びた表情など、実にスクリーンに映える役者だと思う。最近彼に興味を持ったので彼の今までの作品を観たりしている。
映画を観るのは結構集中力を要するので疲れているときに配信で観るのに本作のように気楽に観れる作品はある意味重宝する。