「守って、救え!犬ジジイヒーロー!」いぬやしき 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
守って、救え!犬ジジイヒーロー!
原作コミックもアニメも知らず。このタイトルからホラー映画かな?と思ったレベル。
見ようか否か悩んでいたが、先日ブリュッセル映画祭でグランプリを受賞したのが決め手となり、見ようと。
それに、シッチェス映画祭を受賞した同じ佐藤信介監督の『アイアムアヒーロー』がかなり好きだし、邦画今年最初のVFXアクション大作だし。
“いぬやしき”とはホラー屋敷ではなく、人の名前。
中年サラリーマン、犬屋敷。
気弱な性格で、年齢より老け、見た目はジジイ。
家では誰からも相手にされず。特に娘には心底嫌われている。
会社ではリストラ対象者。
うう、将来自分もそうなりそうな…。
さらに追い討ちをかけるかのように、癌で余命宣告。
もはや何の為に生きているのか…。
悲し過ぎるよ、犬屋敷さん…。
そんなある日謎の爆発に巻き込まれ、死亡…と、思ったら!
何と、身体が機械化しちまった!
腕から銃は飛び出すわ、遠い場所からの声も聞こえるわ、何が何だか分からない。
でも、人の病気や怪我を治す不思議な力を持っている。
人知れず人を救い、生き甲斐を見出だす…。
木梨憲武のキャスティングが絶妙。
機械化した自分の身体のリアクションは、さすが芸人!(笑)
人間味たっぷりの犬屋敷のキャラ像も、木梨の個性の賜物。
あの時犬屋敷と同じ場所に居て、謎の爆発に巻き込まれた人物がもう一人。高校生の獅子神。
学校では存在してないくらい目立たず、唯一の友達は不登校の同級生。
ボロアパートで母親と二人暮らし。とても母親思い。
が、彼は犬屋敷とは別の道へ…。
力を友達に見せびらかしたり、その友達をイジメる同級生を懲らしめたりするのは百歩譲ってよいとしても、遂には…。
自分を神と豪語する。
でも、神なら歪んだ感情で人は殺めない。
そのせいで、彼を暴挙に駆り立てる悲劇が…。
佐藤健が初の悪役。
冷徹な眼差しや佇まいなどさすがに巧いが、高校生役はもう厳しい…。
予告編の感じだともっと能天気なブッ飛びアクションかと思ったら、意外やドラマがメイン。
前半はかなりシリアス。その分、二人の過程をじっくり見れる。
クライマックスでやっとVFXバトル。ここが面白い!
新宿上空を縦横無尽に飛び回り、新宿の街が次々破壊され…、スケールも迫力も、邦画のVFXアクションの中でもかなり高クオリティーではなかっただろうか。
超人パワーの犬ジジイvs獅子高校生。木梨と佐藤健の身体を張った肉弾アクションにも拍手!
『GANTZ』『図書館戦争』『アイアムアヒーロー』など、佐藤信介監督が実写化アクションでまたもや上々のエンタメ手腕を披露。
同じ力を持ちながらも、片や人々を救い、片や無差別に人を殺し…。
性格や境遇の違いもあるだろうが、それでも獅子神の暴挙は理解出来ない。
母親、同級生の女子…彼を襲った悲劇は同情に値するが、人を殺めてしまったら悪行でしかない。
ネット書き込みのクソ野郎どもは別として、ましてや無差別大量殺人なんて、自分自身も言ってるが、人じゃない。
そんな獅子神と対する事になった犬屋敷。
ここで重要なのは、獅子神と戦って倒すんじゃなく、彼の暴挙を止めたい一心。
力を持ってから、犬屋敷はずっとそうだった。
病や怪我に苦しむ人々を“救う”。
崩壊寸前の家族を“守る”。娘に守ってくれた事一度も無いくせに!…とイタイ言葉を浴びせられたが、最後は文字通り娘を“守る”。
獅子神の事も救いたかったのだろう。
まるでそれは、悩める青年に手を差し伸ばす人生の酸いも甘いも経験した先輩として当然の行動。
最後は劇的な決着となるが…、エンディング後のもう一幕で実は生きていた獅子神を救ったのは犬屋敷なんじゃないかと思っている。(深読みし過ぎだし、幾ら何でも見当違いか…?)
超人的な力は戦うんじゃなく、“救う”“守る”為に。
古今東西ヒーロー映画の定石。
そこに、
お父さんはつらいよ。
もう人じゃないけど、誰よりも人らしい尊い行い。
異色だが、人間臭いジジイヒーローの誕生!