劇場公開日 2017年7月8日

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「別れのあいさつを、あの3人に。」メアリと魔女の花 チンプソンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0別れのあいさつを、あの3人に。

2017年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

興奮

米林監督の作品「借りぐらしのアリエッティ」「思い出のマーニー」のいずれも、地上波でしか見たことないうえ、最後まで見たことはない。
そんな自分が米林監督作品を見たいと思ったのは、
過去二作品を作らせてくれたスタジオジブリの製作部門の停止及びそれに伴うリストラ劇から「かぐや姫の物語」で苦労しまくった西村プロデューサが立ち上げたスタジオポノック設立までの経過を見ていたから。
つまり米林監督の新規スタートがこの作品であるから、自分もそれを見届けて今後のスタジオポノック作品の指標を知りたかったから。

率直に言ってしまえば、映画作品としての脚本だとか、演出だとかはあまりイイとは言えず、
だからと言って子供も退屈なのかと言ったらそうではない。やっぱり奇怪なものが出てきたり、ファンタジー要素たっぷりの映像を見せられたら楽しくないわけがない。ようは子供向け映画としては無難な感じ。
主人公のメアリの心情を事細かに、半ばおおげさに表現する。「なるほど、彼女は戸惑ってるな」ということが映像見ずとも伝わるぐらい非常に親切。大人が見たら誰もが「なんだこりゃ??」と感じるでしょう。
けれども序盤、その大人たちは気づくはず。あまりにも既視感がする光景に。

物語始まってすぐにスタジオポノックのロゴが出てくるが、もうその時点で既視感満載。お馴染みの東宝のロゴのあとに、”お馴染みの”スタジオポノックのロゴが表示される・・・わかりますよね?どんなロゴなのか。
この映画、冒頭どころか会社紹介の段階から「あのスタジオに捧げる」と宣言してるようなものなのです。
そこから展開していくキャラクター造形や演出、セリフ、全て既視感満載。もう笑っちゃうぐらい、あからさまです(特にメアリを見守るおばあちゃんらはそのまんまです。信じられないぐらいに)。
子供は物語の不思議な状況に目を食い入るように見、そして大人は違和感満載の既視感に不思議さを感じる・・・映画序盤はこんな感じです。

しかし中盤の物語が大きく動き出すと、今までの既視感が吹き飛び、米林監督の世界が展開されます。
けれども物語はあらぬ方向に向かっていきます。ファンタジー世界を描いていたのに、突如それを否定し始めてしまうのです。
最終的にメアリは「いらない!!」と言ってしまいます。何をいらないのか・・・というのは米林監督がいたスタジオジブリが描いてきたファンタジーには欠かせないキーワードです。それをメアリは「いらないっ!!」と言ってしまったのです。

こういった流れを見ていくと、物語で描かれるメアリの境遇というのがどこかスタジオジブリの皮肉にも見え、
しかしメアリが飛躍していく様を見せられると、やっぱりスタジオジブリに対する感謝にも見え・・・
結局この映画は米林監督ならびに元ジブリスタッフ全員、かつジブリになんらかの形で関わった人に対するメッセージの塊なのです(庵野さんもこの映画に関わってます)。
スタッフロールで描かれるメアリの元の生活の日々。失敗ばかりだったメアリが成長し、(あの既視感満載の)おばあさんに丁寧に挨拶をする。
「さようなら、そしてありがとう」とも言ってるかのよう。
その証拠に、スタッフロールの最後は「感謝」という言葉と共にあの3人の名前が現れます。
スタジオジブリの、あの3人です。

ただいかんせん作品としては二時間という尺は長すぎるし、テンポも悪いのも否めず、
けれどもそういう真っ当に見るようなものではなく、極めてメタ的な映画でもあるので、本来は3点ぐらいなんですが、
普通に考えれば皆これをイイとは言わないしなぁ・・・ということで4点です。
この映画はジブリとの「決別」を交わす映画でもあります。
なので、スタジオポノックは次回作はこういったテイストで作ってはいけません。もっと言えばジブリ色を徹底的に脱色しなければ、この映画で描いたことの意味がなくなってしまう。
次回作、本当に期待しています。

追記:
見た後思い返すと、そこかしこに次回作への伏線みたいなものを感じたような気がした
ラスト手前の、草木のアップが映るシーン。あそこだけ妙にリアルな草木を描いているところからして、次回はジブリのような背景からは外れたものにする意味も込められているのかも。
現に米林、西村、庵野、川上といった人物らが立ち上げた背景スタジオ「でぼぎゃらりー」が設立されているし、
ファンタジーの否定という構図は、もっと現代的な話を次回作はやっていくということなのかも・・・?

チンプソン
pippo9さんのコメント
2017年7月10日

コメントありがとうございます。
点数のロジックまで同じでびっくりしました笑

今作はあくまで、けじめとしてジブリへの感謝の意を込めた作品になったのかなと思います。

「草木」に関してですが、主題歌「RAIN」の歌詞の中でも「草木」というワードが出てきます。
歌詞中の「草木」を「米林監督はじめジブリ卒業生」、「虹」を「ジブリ」と置き換えればより味わい深い歌詞になっていると思います。

米林監督は「思い出のマーニー」のような緻密で丁寧な演出が持ち味だと思うので、リアル方向で頑張ってほしいですね。
「思い出のマーニー」は個人的にはジブリの中でも特に好きな作品なので、ぜひ最後まで観てみて下さい笑

pippo9