「回りくどいやり方で下らない嫌味な復讐劇はいただけない」ノクターナル・アニマルズ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
回りくどいやり方で下らない嫌味な復讐劇はいただけない
グロテスクなジャンク文化を売り物にして稼いだ金で使用人を何人も雇い、豪華な暮らしを送るヒロインの中年女性は、倒産寸前の事業を営む夫に裏切られ、心休まる時もなく夜もろくに眠れない夜行性の動物まがいの荒んだ生き方をしている。
学生時代には彼女も愛を信じ、ブルジョア生活をエンジョイする母親に反旗を翻して、貧乏な作家志望の男性と結婚した。ところが成功の当てもない貧乏な作家生活が続くと、彼を捨て、身ごもった子も中絶して、ハンサムで強い男性と再婚してしまったのだ。
その男性に今度は裏切られ、それに気づきながら強い態度に出られないまま臍を噛む彼女に、元の旦那から新作が送られてくる。それは「夜行性動物」という彼女の綽名をタイトルにして、彼女への献辞まで付された皮肉とも当てつけともつかない作品だった。
その内容を読み始める彼女。内容は、夫と妻、娘3人が自家用車で走っていると、ごろつきの車に因縁をつけられて、さんざん侮辱された後、妻と娘はごろつきにレイプされた後、惨殺されゴミ捨て場に捨てられてしまうという話である。夫も車から放り出され、ほうほうのていで何とかモテルに辿り着くと、保安官補に被害を訴える。
保安官補はやがて犯人を逮捕するが、証拠が弱いために検事は彼らを釈放する。保安官補は末期がんで余命は長くないからと、夫とともに犯人に私的制裁を加えることにする。そしてごろつきの主犯2人を監禁の上、彼らを殺害するが、夫も反撃に遭い死んでいく。
観客はふと、この劇中劇はひょっとしたらヒロインと元夫との生活の実話ではないかと思わされるものの、彼女の娘はちゃんと生きているし、彼女自身も元夫との胎児は中絶してしまったから、小説はあくまでフィクションであるらしい。では、何故、このようなややこしい内容の本を送り付けてきたのか。
読了したヒロインは、内容に感心して元夫に連絡し、面会の約束をする。彼女の夫が別の金持ちそうな女性と浮気している夜、彼女も元夫と会うためにレストランの席に就き、彼を待つ。ところが…彼はいつまで経っても現れず、そのまま映画は終わる。
観客はその時、いったい元夫の小説=劇中劇の意味するものは何か、再度考えさせられる。そして、元夫が自分は彼女に裏切られ、中絶で娘を失った苦しみに死にかけたのだと、そしてその恨みを晴らしたかったのだということを悟るのである。劇中劇の復讐相手はごろつきたちのように見えるが、実は復讐相手はヒロインとその夫だったということだ。
そのように思い至ると、元夫の小説はあまりにも回りくどすぎるし、下らなすぎる。ちょっとこれではブルジョア生活好きのヒロインでなくても捨てるかなw…と思わされもし、何とも言葉に困る。ま、推理小説によくあるパターンといえばその通りではあるが、小生はこういう人物群はいただけない。