劇場公開日 2017年1月14日

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「生きることは呪縛であると無言で突き付けるモノクロ映像が凍てつくほどに冷たい」静かなる叫び よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0生きることは呪縛であると無言で突き付けるモノクロ映像が凍てつくほどに冷たい

2019年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『複製された男』以降のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品は全部観ていますが、ほぼ10年前に製作されたという本作は存在すら知りませんでしたし、1989年12月にモントリオール理工科大学で起こった銃乱射事件というのも知りませんでした。平成元年に同世代の学生が無差別に惨殺されたことも知らなかったことに映画を観る前から胸がいっぱいになりました。

映画の冒頭でも説明される通り実在の事件を扱っているもののあくまでフィクション。これは今まさに公開中の『ウトヤ島、7月22日』と同じ手法。テロそのものだけでなく、テロから生還した学生達の心理にも迫る視点を持っているという意味では、さっぱり話題にならなかったのが残念なネトフリ作品『7月22日』にも通じていて、すなわち10年前の作品とは思えない先鋭的で力強い作品。

フェミニズムに対して理不尽な怒りを抱えて銃をとるテロ実行犯、男性優位社会に対して怒りを湛えるヴァレリー、テロ実行犯と対峙しながら反抗阻止に踏み切れなかった悔恨の思いに引き裂かれるジャン=フランソワ、といった人物たちが佇む雪に覆われたモントリオールを静かに見つめ続けるモノクロ映像が凍てつくほどに冷たい。77分という短い尺ですがこの作品が問いかけるテーマは深遠で、今この瞬間に生きていることの素晴らしさを受け入れながらも、これからも生きることは呪縛であることと同義という閉塞感に息が詰まる、そんな強烈な作品でした。ヴァレリーを演じたカリーヌ・ヴァナッスの透き通るような美しさも印象的です。

よね