「何気ないシーンが全部泣ける」8年越しの花嫁 奇跡の実話 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
何気ないシーンが全部泣ける
主演の佐藤健と土屋太鳳がこれでもかとばかりテレビで宣伝しまくっていたので、逆に眉唾な印象が先立ち、大した作品ではないだろうと思いながら鑑賞した。
出会いのシーンはどうだったんだろうか。土屋太鳳が人の事情や気持ちを察しない、独りよがりで無神経な女の子に見えて、そこから病気の発症に至るまでが、なんだかマイナスを取り戻すような流れに思えてしまった。人間としての魅力に欠ける出会いのシーンのおかげで、最後まで土屋太鳳には感情移入できなかった。
両親役の薬師丸ひろ子と杉本哲太がリアリティのある演技で娘への愛情にあふれた普通の両親を演じたおかげで、作品に深みと奥行きが出た。佐藤健は去年の「世界から猫が消えたなら」や「何者」あたりから「るろうに剣心」のとぼけた演技を脱して、人間の苦悩を演じられるようになってきたと思う。本作品では実直で一本気な青年を演じ、どこまでも献身的に無償の行為を続ける姿が見事であった。
この3人には登場してからすぐに感情移入してしまった。何気ないシーンでも希望と絶望の混ざった複雑な思いが伝わってきて、知らず知らずに涙が溢れてくる。土屋太鳳も後半の演技はなかなかよくて、ようやく佐藤健に釣り合う程度になった。もしかしたらこの女性の精神的な成長も表現したかったのかもしれないが、それにしても前半の人物像が軽すぎたせいで、後半に成長を感じるほどではなかった。
この映画には悪人はひとりも登場しない。登場人物の誰にも、ひとかけらの悪意さえない。みんなが主人公を応援し、共に喜び共に悲しむ。現実にはなかなか難しい設定だが、役者たちの自然な演技のおかげで物語がリアリティを得ることができた。傑作である。