「少年の魂は解放される」ムーンライト REXさんの映画レビュー(感想・評価)
少年の魂は解放される
全編を貫く言いようのない緊張感に、どっと疲れた2時間だった。
暴力を振るわれる恐怖、友人を失う恐怖、自分の中に芽生えた感情をもてあます恐怖、それが露見する恐怖、母親が壊れていく様をなす術も無く見守る恐怖。
主人公はもどかしいほど無言。しかしこれほど沈黙が雄弁に語る映画はあっただろうか。
心の中に言葉はあふれているのに、幾重にも暗いベールに世界を閉ざされ、それを払いのけることができない苦しさがこちらにも伝わり、息が詰まった。
肌を撫でる音、初めて他人と触れあった夜の波の音、探るような息づかい、夢精した朝。匂いまで感じられるような生々しさに戸惑いながらも、彼の心の震えに共振する。
暴力や貧困、マイノリティーであることに苦しむ中、主人公が秘めてきた想いに一筋の光が差す。
そのとき気づかされた、紛れもない純愛に心が揺さぶられた。
物語を追体験したいと思う映画ではない。でも、劇場にいる間は確実に、私は彼そのものであるような錯覚に陥っていた。
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