「拠りどころがないということ」ムーンライト あだじぇっとさんの映画レビュー(感想・評価)
拠りどころがないということ
この作品,The Color Purple へのオマージュだろうか?
社会の底辺に位置する地域。
そこに住んでいる ということが、すでに人生の選択肢なく日々いのちをつなぐことしか考えない荒んだ人生を意味する。
そのやるせなさ、いらだたしさが、さらに集団の中の弱い者へのいじめの原動力になる。
最下層社会で虐げられる者。
ひと昔前なら、それは女性であったのだろう。
が、女性は強くなった、というよりも 連帯する力を持ち自らが弱い存在ではないことに目覚めた。
The Color Purple はそんな作品だった。
でも、この作品の少年はもっと寄る辺ない。
愛し守ってくれるはずの母も自分のことしか考えられない。自分が何者かもわからないまま、ただ暴力に屈しないことだけを覚えていく。
彼が自ら育て上げた力は、実はひ弱で脆い。
でも、どうしたらいいのか?
全くわからないままに、ただ一度優しくしてくれた友達にすがる。
今年のオスカー作品賞。
確かに 政治的な配慮、そしてブラピがプロデューサーという背景あっての受賞だろう。
あまりの痛々しさに涙したが、全くわからなかったという方に「母性くすぐられたか?」と。
ああそうですか?
日本人だから? 米国文化を理解してないから?
ああいった社会の底辺を描くものは理解できない?
なるほど、これでは、Fences も Hidden Figures も公開してもワリに合わないとなってしまうわけだ。
そして、その想像力の欠如が、マッチョで知性の低い政治を支えているのかもしれない。
十代の主人公を演じた役者の鬱屈と怒りを充満させた表情が凄まじかった。