「クリーンなラストに魅了される」ナミヤ雑貨店の奇蹟 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
クリーンなラストに魅了される
本作は愚直なまでに人生というものに向き合った良質な人間ドラマである。何といってもラストが出色の素晴らしさである。ナレーションは一切ない。映像と主題歌だけで紡ぎ出されるラストシーンには、ハッピーエンドという言葉は相応しくない。透明感、清々しさがあり、心が浄化される感覚がある。造語になってしまうが、感じたままで表現するならば“クリーンエンド”という言葉が最適だと思う。このラストシーンだけでも一見の価値のある作品である。
同じ養護施設で過ごした、主人公・敦也(山田涼介)と二人の仲間は、ある切欠で、空き家になっていたナミヤ雑貨店で一夜を過ごすことになる。そこで、突然、シャッター窓から手紙が投函される。最初は戸惑っていた主人公達だが、ナミヤ雑貨店主(西田敏行)がかつて人生相談をしていたことを知っていた主人公達は、興味本位で手紙に綴られた人生相談を読み、答えを書いていく。手紙でのやり取りを繰り返しながら、次第に主人公達は様々な人生を知ることになる・・・・。
物語は過去と現在を往復していくので、過去である1970~1980年代の当時のナミヤ雑貨店とその周辺が映し出されるが、現在よりは人間臭い昭和の香りが濃厚で、チューナー付きブラウン管TVなどで、当時が懐かしく思い出される。そんなに昔だという実感は無いが、画像を突き付けられると、“昭和は遠くなりにけり”という感が強い。
本作では、当時の様々な人生が綴られていく。どの人生も、絵空事ではなく、容赦なく、現実的で生々しいが、何処か温もりがある。そんな人生に極端にフォーカスせず、淡々と描いていくので、客観的にそれぞれの人生を捉えることができる。それぞれの人生について考えさせられる。
本作は、台詞のやり取りだけで、音楽もアクションもないシーンも多く、単調な感じになっているのは否めない。しかし、敢えて話を盛り上げることをせず、メリハリを無理につけないところに、作り手の真摯な姿勢、潔さを感じる。
これから、この作品の名前を聞くたびに、ラストシーンのことは鮮明に思い出すだろう。本作は、意外でも、劇的でも、激しくも、華麗でもないが、一点の曇りもない、清らかで、瑞々しくて、純粋な、“クリーンエンド”なラストシーンに魅了されてしまう作品である。
この作品は映画でも小説でも読みました。
みかずきさんがおっしゃる通り、心があらわれるような作品です。
東野圭吾さんの作品には、このようなものも多く、好きで読んでいます。
小説で泣いたのは、この作品と「時生」です。