「東野圭吾版"ドラえもん"。これは廣木監督のせいじゃない」ナミヤ雑貨店の奇蹟 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
東野圭吾版"ドラえもん"。これは廣木監督のせいじゃない
"東野圭吾作品史上、もっとも泣ける"とは、ずいぶんと大げさなコピーだ。
むろん東野の同名小説が原作となっており、原作の構成がガチガチに固まっている。・・・要するに"東野圭吾臭い"。何から何まで作為的な構成が鼻につく。だからこれは廣木隆一監督のせいじゃない。
プロットに寄り添って具現化した映像を用意すれば、誰が作っても、おそらく同じテイストになってしまうだろう。
とか言いつつ、不覚にもウルっとしてしまったばかりか、やっぱり気になって、すでに2度目の観賞である。なので、少し冷静に分析してみたい。
ストーリーは、"ナミヤ雑貨店"という場所を介して、昔(1969年~1980年代)と、現代(2012年)で生きる複数の登場人物の"人情エピソード"が、互いを伏線としながら、リレーしていく群像劇。
その伏線の組み立ては、犯罪ミステリーの執筆手法を応用しているので、東野圭吾らしいといえば、その通りである。そこが鼻につく人には、気に入らないところばかりになる。
本作は人間ドラマやミステリーではなく、ひとことでいうと、タイムループを素材としたSF映画であり、タイムトリップするのは"手紙"である。過去と現在との"手紙"のやりとりが複数の優しさをつないでいく。
言ってみれば、東野圭吾版の"ドラえもん"的エピソードなのである(笑)。
それゆえ、見事に腑に落ちる時系列の整合性は、必ずしも叙情的ではない。"ジョン・レノンの殺害事件"と当時の音楽シーンへの影響、"バブル景気"のくだりや、"シャッター商店街のはじまり"など状況分析力は冷静すきるほどで、"そろばんずく"な構成が目立つ。
エンディングのマジメな終息のさせ方は、明るくていいのかもしれないが、むしろ西田敏行の最期の夜で終わらせた方が、感動作としては号泣できた。だからこそ、この順番は廣木隆一監督なら変えてほしかったかも。
全編VFX処理が多用されているが、画質はデシタル的でスッキリとヌケている。大胆な画角のフレーミングは、廣木監督とよくタッグを組む、鍋島淳裕。
「娚(おとこ)の一生」(2015)や「さよなら歌舞伎町」(2015)などでも撮影を担当している。今年は、ミニシアター系の小作品「彼女の人生は間違いじゃない」でも、いい画を撮っていた。
ついでに映画主題歌が、なぜ"山下達郎"なのか・・・。それも、劇中歌"REBORN"が80年代に作曲されたという設定に合わせていると考えられるが、その真意を認めてしまうと、"山下達郎は昔の人"ということになるので、角川も松竹も否定するだろうね(失礼)。
主演というには、群像劇なので、誰ということもないのだが、一応、西田敏行と山田涼介ということになる。西田敏行の力の入りすぎた演技は、若干、食傷気味。逆にダチョウ倶楽部の上島竜平が頭をよぎってしまう(・・・泣)。
しかし、"Hey! Say! JUMP"のアイドル山田涼介がこういう正統派ドラマに主演するのは、とてもいいことだ。色メガネで評価するスレたオトナはほっとけばいい。ジャニーズ事務所のブッキングとしては、"ウルトラ イイネ(👍)"である。
ひとつひとつのエピソードに主役がいるので、それぞれの俳優の演技合戦である。なかでも子役の鈴木梨央ちゃんがいい。ついでに、門脇麦ファンにはうれしい歌声と、ちょっとしたコンテンポラリーダンス的な振りが拝める。これは収穫。
これだけ悪口を並べてしまったあとだが、アタマで考えずに受け止めれば、素直に泣ける映画である。
(2017/10/1 /ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ) + ( 2017/7/4 /松竹試写室/シネスコ)