「拗らせて拗らせて、ある日スルッと解ける」スウィート17モンスター つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
拗らせて拗らせて、ある日スルッと解ける
映画の冒頭、歴史教師の昼休みを妨害して「自殺計画」を一息にまくし立てる主人公・ネイディーン。一通り聞き終わった教師・ブルーナーは、そんな彼女をこう表している。
「奇抜な服の生徒」
そう、ネイディーンの服は奇抜、はっきり言って「クソダサい」。パーツの1つ1つは悪くない。
組み合わせが絶望的なだけた。でも、そう、絶望的にダセェ。わりとマジで。
なんでそんなクソみたいなコーディネートなのか。それはわりと簡単。拗らせてるからだ。
ネイディーンは可愛くありたいと思ってる。まぁ女の子だから、基本的にすべての女子は可愛くありたい。
一方で自分は可愛くないと思ってる。
可愛くない自分が、カワイイ服?どうだろう…。「あの子、自分のこと可愛いと思ってるんじゃない?(クスクス)」ダメダメ!
私、可愛くありませんから!もっとこう…フツー?自然に?カジュアルな感じで?
さらにちょっと大人な感じ…、そう、私は同年代のガキどもとは違うの!大人よ!
そのコンビネーションがあの組み合わせ。色合いも素材も一体感のない「奇抜」なファッション。
拗らせまくりのネイディーンを表す、素晴らしい衣装ワークだ。
だいたい、あんなデカイ鹿がプリントされたセーター、なんで買ったし。
自分に自信が持てない一方で、そんな自分は世界一不幸で、周りの人間は充実してると思ってる。そんな自分を好きでいてくれていると思っていた、親友のクリスタまで「勝ち組」の兄貴と付き合って、自分を置いて勝ち組の女子になってしまった…。
自分に好意を寄せてくれているアーウィンに寂しさを埋めてもらおうとしたり、「超ホット」なニックへセックスを誘うサイコメールを誤爆したり、ネイディーンの暴走は止まらない。
ちなみに、ニックに逢うためにネイディーンが選んだ服はカワイイ全振りでマトモだった。ちゃんとした服持ってんじゃねーか!!
この映画はわりとベタな青春映画だ。拗らせまくりのネイディーンが、自分だけが不幸だと思っていたネイディーンが、世界はみんな平等に不公平なんだと気づく。
世界の不公平さに傷つき、僻み、自分の醜さを受け入れられなかったネイディーンが、このまま大人になるのは嫌だ、とはっきり自覚する。
その為に力を貸してくれたのは、ナルシスト兄貴であり、冴えないアーウィンであり、偏屈教師ブルーナーである。
それもそのはず、「ナルシスト」も「冴えない」のも「偏屈」も、ネイディーンのエゴの中で固められた思い込みの一面だ。
兄貴もアーウィンもブルーナーも、それぞれにネイディーンの思ってもいなかった一面があり、みんなネイディーンよりちょっと大人なのである。
ネイディーンの殻を破れるのはネイディーンだけだ。ネイディーンが心の底から「一生このままなんてイヤ」と思ったから、拗らせ女子高生は大人になれたのである。
殻を打ち破ったネイディーンのファッションは「奇抜」とは程遠い。背伸びして付加価値を付ける必要のない彼女の姿は、よっぽど以前よりオシャレ。爽やかな秋晴れと、実りを迎えた秋の紅葉に馴染むワイン色のセーターとデニムパンツで出かけるネイディーンは、もう周囲に引け目を感じる必要のない「魅力的な女子」だ。
ハイ!私、ネイディーンよ。よろしく!
そう素直に言える彼女になれたことを、嬉しく思える。最高にハッピーな青春映画だ。
床に脱ぎ散らかした服は、慈善団体に寄付したのだろうか?
寄付した方が良いと思うな、わりとマジで。