「少女の存在をなかったことにさせない」午後8時の訪問者 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
少女の存在をなかったことにさせない
ダルデンヌ兄弟は移民とか貧困層、つまりダルデンヌ兄弟が考える恵まれない人を主人公に据えることが多い。彼らに寄り添って彼らの中にある人間らしさを描くのだ。
しかし本作の主人公ジェニーは違う。恵まれない立場にいない。
恵まれない人を直接的に描くのではなく、アプローチを変えてジェニーと触れ合うことで間接的に描いた。
割とシンプルな脚本になることが多いダルデンヌ兄弟にしては珍しいのではないかと思う。近年の作品はまぁまぁ凝った脚本だったりもするので、ダルデンヌ兄弟が変わったとみることもできるけれど。
あるアフリカ系移民の少女の死。これに対してジェニーは向き合おうとした。ちょっとした心のゆとりのなさからきた失敗が少女の死を引き起こしたと責任を感じているところもあるだろう。
しかし、必死に少女の身元を探ろうとするジェニーの行動は明らかに過剰だ。少し気に病む程度が普通だろう。
ジェニーが行動することで、少女に近しい人物や事件の真相に近い人物と接触することになる。
過剰に行動するジェニーの姿を見ることで、周りの人々に変化が訪れる。
一人の少女の死に多くの人が向き合わず、やり過ごそうとしていた。もうなかったことにしようとするように。しかしそれは亡くなった少女の存在もなかったことにすることと同義だ。
誰にも気に留められることもない移民の少女が確かに存在したとジェニーは証明したかったに違いない。
ドキュメンタリー出身の監督だけあって、手持ちカメラによるドキュメンタリーのような作風は物語の単調さを生みやすいが、サスペンス的な要素を含む本作は「娯楽性」という意味で過去一番だったかもしれない。
ダルデンヌ兄弟だから絶対に事件の真相は明らかにならないと思っていたけれど、それが判明するだけでミステリーやサスペンスの要件を満たしているのだから、今までと違って面白い。