「レインコートを着てシャワーを浴びるようなもの」パターソン kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
レインコートを着てシャワーを浴びるようなもの
ジム・ジャームッシュ作品はほとんどハズレが無い。特に初期の頃には白黒作品でオフビートな雰囲気が心打つというより心に残るものが多かった。どちらかと言うと、コメディアンが出演している方が好きなのですが、大きな展開もなくゆったりとした作品も好きだ。
今作はニュージャージー州パターソンに住む、地名と同じ名前のバス運転手(アダム・ドライヴァー)が主人公。愛する妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)と愛犬マーヴィン(ネリー)。朝早く起きて職場にに行き、始業前にノートに詩を綴り、上司の愚痴を聞いてからエンジンをかける。帰宅すると、倒れかけた郵便受けを直し、キスする度に吠えるマーヴィンを散歩に連れていってバーでビールを飲む。そして週末には映画館、と平凡な1週間を淡々と描くといった内容だ。
そんな平凡な日常の中にもパターソンの心の変化がある。妻から「双子が生まれる夢を見た」と言われてからは、少女やおじさんといった町中の双子が視界に飛び込んでくる。しかし、日課となっている詩にはもっと日常的で平穏な心象風景が書き綴られるのだ。一方で、中東アジア系の妻ローラはなんでも白と黒にこだわるアーティスティックな存在。妻が作ってくれるお弁当にも自宅に飾られた写真や、彼女が白黒ツートンに塗り替えた衣装や家具が微妙にシンクロしている細かな面白さ。注文したギターも市場に出店するカップケーキも全て白黒なのです。
ちょっとした展開といえば、バスの電気系統の故障とか、バーで彼女に振られた男がおもちゃの銃で自殺しようとするシーンとか、詩を書き溜めたノートを愛犬によっと食いちぎられたといったところ。コピーしておけよ・・・と思ってもみたが、この映画は平凡な人間が前向きに生きていく姿を描いているので、これが良かったのかもしれない。また、終盤に登場する永瀬正敏がいい味付けをしています。