「気楽にはやれん仕事やね」光(河瀬直美監督) Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
気楽にはやれん仕事やね
水崎綾女はけっこう気楽に映画の音声ガイドを始めたんじゃないかなあって気がすんの。最初のガイドは物語を開かなきゃいけないところで「その表情は生きる希望に満ちていた」とか閉じていっちゃってるし。
その気楽な人に向かって「想像力で映画の中に入っていける」「映画ってすごく大きなものだ」「それを言葉で壊されると残念」って言うモニターの人も凄い。水崎綾女に期待してんのかも知れないけど。
視覚障害者はどうも見えないがゆえに見えるものがある「映画を観るプロ」なんだよね。
それで水崎綾女は映画監督に会いに行って「そういう曖昧なものではなく、この映画にはハッキリとした希望が欲しい」と言い放ったりして、これは河瀬監督が誰かに言われたんだろうな。劇中の映画監督は「あなたに会えて良かった。この映画があなたの希望になってくれたら嬉しい」って肯定的に言って別れんのね。これも河瀬監督は言われた時にこう思ったんだろうな。
「観るプロ」に促され、「撮るプロ」に会い、この両方に負けないように音声ガイドをする感じになって、もう大変なんだよね。気楽に始めたんだろうに、クリエーター同士の闘いに巻き込まれてる感じなの。
「撮るプロ」が創った作品を、「観るプロ」が満足するように翻案しろっていう。どんだけ難しいんだよ。
それで「水崎綾女どうすんだろうな?」「河瀬監督はどうケリつけてくんだろな?」と思いながら観てて、最後はまあまあ納得かな。ここが突き抜けるようなラストだったら「参りました」っていう大傑作だけど、それは、普通に、難しい。それができたら、どんな作品でも大傑作になるからね。
と思いながら観てたんだけど、本線のストーリーはちょっと違うところにあったね。永瀬正敏と水崎綾女がぶつかり合って互いを理解して、それを通じて水崎綾女が何かをつかむみたいなところがあった。
この主演に水崎綾女を抜いてきたのはすごいね。ムチャクチャ演技がうまい女優さんではないと思うんだけど、はまってた。
そんなこんなで全体としては「河瀬監督すげえな」と思ったので、他の作品も観てみようかな。