不能犯 : インタビュー
松坂桃李&沢尻エリカが出合ったハマり役 初共演のキーワードは“信頼”と“笑顔”
松坂桃李主演、沢尻エリカ共演の映画「不能犯」が、2月1日から公開される。物語は深い闇がはびこり、主人公とヒロインはバチバチと火花を散らしたが、インタビュー会場で肩を並べて待っていた松坂&沢尻の関係性は、それとは裏腹に和気あいあいとした温かみに満ちていた。語り口も軽快そのもの、笑いを絶やさず撮影の日々に思いをめぐらせた。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
原作・宮月新氏、作画・神崎裕也氏による人気漫画を、「貞子vs伽椰子」などホラーの名手・白石晃士監督が実写映画化。瞳の力で人を操れる宇相吹正(松坂)は、欲望や憎悪に駆られた者の依頼を受け、事故や病死などに見せかけ対象を殺害していく。犯罪を意図した行為でも、実現が不可能であれば罪に問うことはできない。これを“不能犯”という。正義を貫く女刑事・多田友子(沢尻)は何度も宇相吹と対峙し、やがて自分だけが操られないことに気がつく。
ハマり役だ。2人の熱演を見ると、そんな感想が自然と湧き上がってくる。好青年のイメージが強い松坂だが、彼が宇相吹を演じるからこそ、ここまでの狂気が強調されることが次第にわかり、ハッとさせられる。すらりと伸びる長身を折りたたむように前かがみになり、整った顔立ちをぐにゃりと歪め笑う……。筆舌に尽くしがたい不気味さが、観客の背筋を撫で続けていく。
松坂「宇相吹は人物だとは思っていなかったです。業や欲にまみれた依頼人たち、社会のある種“映し身”なんです。演じる際には、なるべく“生感”を消しています。特に動きを気にし、歩き方はスーッと現れ、スーッと去って行く。監督が演出効果で足音を消してくれていて、暗い照明が合わさり『いるようでいない存在』ができあがったんです」
そして沢尻も、快刀乱麻とも言うべき鮮やかな表現力で多田を演じ切っている。面倒見のいい姐御肌で、同僚の信望厚い女性刑事である一方、行きつけの居酒屋では心からリラックスし、気分よく酔っ払ってしまう“隙だらけ”の一面も持つキャラだ。芯の強い美しさと、人間臭いかわいらしさを併せ持つこの役は、沢尻がこれまで形成してきたパブリックイメージと重なる。
沢尻「原作では男性、映画では女性に変わっているキャラです。なので原作はあえて読まないようにし、脚本で描かれている内面をとにかく紡いでいこうと意識していました。人間味があり、すごく親しみやすかったです。一方で心を許すまでは後輩(新田真剣佑扮する百々瀬麻雄)を“新人”と呼んでいたり、自分のポリシーを曲げない精神がかっこいいと、女性から見ても思いましたね」
初共演となった2人だが、お互いの印象は対面前からすこぶる良かった。共演決定当時を、沢尻は「松坂さんが主演なので『OK、OK。即決!』。全部頼っても大丈夫そうな信頼感。安定感抜群ですから」と振り返り、嬉しそうに頬を緩めた松坂は「いやいやいや、何言っているんですか、とんでもないです。僕も共演は嬉しかったですね。沢尻さんのお芝居を見て、いつかタイミングが合えばご一緒してみたかったんです。ようやく来た! と念願かないました」と声を弾ませた。
そんな好印象は、現場で対面するや強いインパクトを伴う“確信”へと変わった。「沢尻さんを現場で見たとき、多田刑事の芯の強さがそのまま表れていました。だから自分も宇相吹の空気感を持ち続けていれば、作品にもいい効果を及ぼすと思って。沢尻さんの表現が、僕たちの芝居を成立させていた」(松坂)、「宇相吹そのままのビジュアル。『うわっ!』と驚いて、近づきがたいオーラと、ミステリアスな怖さが全面に出ていました。キャラクター上なかなか打ち解けられないので(笑)、興味はあるけどしゃべりかけられない。後半にスタッフさんと皆でごはんに行って、そこでお酒も飲んで、『よかった、普通の人だ(笑)』と安心しました」(沢尻)と、称賛の言葉が口をついて止まらない。
互いの役者としての力量が“信頼の源泉”となり、熱のこもったカットが創出されていった。ダークヒーローと女刑事がプライドや信念を激突させる相互アクションはもちろんだが、むしろ2人は“シリアスな笑い”が表出したシーンを、爆笑しながら語り合う。
松坂「矢田亜希子(夜目美冬役)さんの腕を、僕がいきなり舐める場面。監督からは『ペロッではなく、ベロッ! で』と、それだけ指示されていました(笑)。人の腕を舐めるなんて初めての経験で、変な感じでした」
沢尻「撮影中は間近で見ていましたが、不思議なシーンでしたね(笑)。しかし多田は洗脳が唯一効かない。目の前でいきなり腕を舐めているし、舐められたほうは変になっているし、『おいおいおい、どうした? 本当に、なにやっているの?』という戸惑いがリアルに出ています」
また、多田が宇相吹の腸(はらわた)とも言える廃墟に乗り込むひと幕では、後輩刑事・若松亮平(菅谷哲也)に悲劇が襲い掛かる。緊張感が走るシーンだが、ここでも沢尻は「撮影では私が一番近くで見ていて、それが面白くて。画に描いたような……、変なところで笑っちゃった」と身をよじる。松坂も「沢尻さんが1人だけ爆笑しているんですよ。僕は遠くから見ていて、『相当、面白いことが起きているんだろうな』と思っていた」と吹き出し、「テラスハウスとか、そのイメージ含めての面白さですよね(笑)」と同調していた。
一方で誰かに向けられる呪詛や怨嗟が当たり前となり、薄暗い幕が覆いかぶさる現在、今作はどのように受け止められるだろうか。松坂は「依頼人は、世の中にありふれるちょっとした感情を増長させ、依頼に至るんです。自分も何かのきっかけで、誰かに『死ねばいいのに』と思いかねない。今作から『自分も危ないかも』と感じてもらえると嬉しいです」と思いを込め、沢尻は「マイナスの感情よりは、すこしでもプラスに、平和に過ごすほうが絶対にいい。ひょんなことからマイナスになり得てしまうことはすごく怖いことですが、人に上も下もないし、同じ人間だという価値観をみんなが持てるようになればいいなと思います」と見解を述べた。
宇相吹が「愚かだね、人間は――」と見下すように突き放すのに対し、多田は「美女が助けになってあげるよ」と救いの手を差し伸べる。宇相吹と多田に「今作の意義」を聞いたとしても、上述の2人と同様の答えが返ってくるに違いない。松坂&沢尻が今作で出合った役どころは、表層だけではなく、深層心理でもピタリと重なるハマり役だった。