劇場公開日 2017年1月14日

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トッド・ソロンズの子犬物語 : 映画評論・批評

2016年12月27日更新

2017年1月14日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

トッド・ソロンズの新境地。メランコリックな優しさと抒情が溶け合った奇妙な後味

トッド・ソロンズの映画は、できることなら直視したくない人間の精神の暗部にブラックな笑いで容赦なくメスを入れてくる。この新作も邦題は一見、慈悲深い動物愛護の精神を謳い上げた作品であるかのようだ。だが、だまされてはいけない。この一匹のダックスフントが四人の飼い主たちの間を転々するロードムーヴィーは、アメリカが抱える病理を浮かび上がらせる、過酷な受難の旅そのものだからだ。トッド・ソロンズは、明らかに一匹のロバの運命をキリストの受難劇になぞらえたロベール・ブレッソンの名作「バルタザールどこへ行く」を下敷きにしている。

最初は小児がんの少年と犬との心温まる交流が描かれる。だが、粗相をしでかしたために両親(母はジュリー・デルピー!)は犬を安楽死させようとする。危機を救った獣医の助手ドーン・ウィナー(グレタ・ガーウィグ)は元クラスメートだった麻薬中毒者ブランドン(キーラン・カルキン)と再会し、犬を連れて一緒に彼のダウン症の弟夫婦に会いに行く。あまりにぎこちなく、ちぐはぐな会話を通じて兄弟の和解をさらりと描いたこのエピソードは篇中、そのポエティックな閃きと美しさで最も印象に残る。

人を食ったインターミッションを挟んで、飼い主は大学の映画学科で教える老年の万年講師デイブ(ダニー・デヴィード)に移る。脚本が全く売れず焦燥感にかられたデイブは、教え子の若手監督に学生たちの前で侮辱され、ブチ切れてトンデモない行動に出る。

エピローグで登場する老女ナナ(エレン・バースティン)があり得たかもしれない可能性を具現化した少女時代の分身たちと対話する幻想的なシーンも忘れがたい。映画はこの後、唖然となるオチが用意されている。だが、かつてのグロテスクなまでの露悪的な笑いは影を潜め、メランコリックな優しさと抒情が溶け合った奇妙な後味が残る。トッド・ソロンズの新境地といえるだろう。

高崎俊夫

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