「柔らかい殻」ゴースト・イン・ザ・シェル 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
柔らかい殻
原作コミックと押井守監督のアニメ版は、原作の
熱狂的ファンであった友人から勧められて高校時代
に鑑賞したが、残念ながらそれ以降は見直していない。
なので、元の話は記憶からほぼほぼすっ飛んでいる。
そんな付け焼刃程度の知識からの印象ではあるが、
予告編の映像は鮮烈なアニメ版を僕に思い起こさせたし
そもそもカッコ良さそうだしでちょい期待していた。
主演のスカヨハ嬢も好きだしね。まあ原作の主人公と
比べるとちょっとふ……肉感的過ぎるかとも感じたけれど(←コラ)。
* * *
原作に対しての自分の印象は、
近未来の雑然とした風景は一見して傑作SF『ブレード
・ランナー』を彷彿とさせるが、人間と電子頭脳が
融合したSF世界の現実味溢れる緻密な描写、そして
ドライかつハードなキャラが独自の魅力を放っていた印象。
が、今回の映画を観てまず感じたのは――
「原作ってこんなにウェットでソフトな内容だったっけ?」。
途中からは別物だと割り切って観る事にしたが、
もっとストイックな内容を期待していたせいか、
ちょっと消化不良感を覚えてしまった。
特に映画の主人公ミラの印象は原作とかなり異なる。
原作の方が前述通りハードかつドライな印象なのに対し、
ミラの場合は、血の通った肉体への思慕や、他人と
繋がりたいという人間的な憧れがもろに前面に出てきて、
後半では「自分は何者か」を探る為だけに行動する
思いっきりエモーショナルなキャラへとシフト。
そのキャラ自体は良いのだけど、違和感。
これは他で例えるなら、
ゴルゴ13が「俺は何故人を殺めるのか……」と葛藤したり、
アンパンマンが「俺の顔を食べる前に自分で食料を得る
努力くらいしてみたらどうだ……」とカバオ君に言い放つ
くらいの改変だと感じる。(極端過ぎないかそれ)
ここは自分の中での原作との印象の差異から受けた不満
であるが、一般的な近未来SF映画としても不満アリ。
世界観の描写は、造形や色彩など表面上は一見鮮烈だが、
人間と電子頭脳とが融合した近未来、という設定の
奥深さや緻密さを感じるアイテムや描写は殆ど無い。
3Dで浮かぶ巨大なゲイシャやチベット僧なども、
ミスティック・エイジアな雰囲気を醸し出すべく
投入されただけであって、大きな意味はない。
見栄えが良くてもそれがただの背景以上の物ではないので、
最終的な印象として世界観が薄っぺらく感じられる。
で、結局、「『ブレード・ランナー』等に影響された
よくある近未来もの」と言う印象に落ち着いてしまった。
* * *
ここまで悪口ばっか書いているわけだが……
最終的な判定としては観て損ナシの3.5判定。
映画の主人公は映画の主人公だとミラに共感し、
原作とは別物のスタイリッシュなSFアクション
だと割り切って観てしまえば、
本作は決して悪い出来ではないと思う。
流麗な銃撃&格闘アクションやビジュアルは楽しめたし、
自身の過去を探る主人公とその周囲の人々が織り成す
ドラマはエモーショナルで、僕はけっこう好きだった。
特に桃井かおりの登場する場面には心を動かされたし、
ミラに対して科学者としての好奇心と母のような
感情が入り雑じるオウレイ博士も切なくて良い。
機械と人の魂(ゴースト)の境界はどこにあるのかという
深遠なテーマはさして描かれないが、科学や利益の為に
人の魂を弄ぶテクノロジーの脅威というテーマはそれでも残る。
* * *
北野武も魅力的に撮られてたと思うしね。
自分の部下を信じ抜くリーダーはカッコいい。
冒頭とは別の攻殻機動隊ファンの知り合いが、
「荒巻(北野武の役)に銃なんか持たせちゃいけない、
その時点で原作の荒巻とは全然別キャラだ」と
不満タラタラで語っていたのだが、しかし、まあ、
彼のバイオレンス映画が好きな自分に言わせれば、
“世界の北野”には拳銃ブッ放させたくなるのが人の性(さが)(?)。
かの劇作家チューホフも有名な言葉を遺している。
『第1幕に北野武を登場させたら、第2幕では
銃を発砲させるべきである』(言ってない)
真面目な話、北野武は演技や台詞回しが巧いとは
思えないのだけど、そこも含めて笠智衆や大滝秀治
等の俳優さんに相通じるものを感じるんですね、僕は。
深みのある風貌と独特の声音、佇まいの魅力。
本作の場合も、あのざりざりとした佇まいが
映画のトーンにマッチしていると感じた。
「狐殺すのに兎よこしてんじゃないよバカヤロー!」(言ってない)
* * *
鑑賞後、原作との差異をより詳細に書いた方のブログ等
を読んだが、僕が過去に鑑賞した原作・アニメ映画
だけでなく、以降に発表されたシリーズからも
引用したと思われる設定が本作には色々とあるそうな。
僕は中途半端な立場でのレビューな訳だが、
原作への知識が殆どない人や、原作との差異を楽しむ
くらいの心構えでいられる人なら楽しめるのかも。
僕は割と楽しかったです。
<2017.04.08鑑賞>